北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
イラスト/田房永子
イラスト/田房永子

 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は“差別入試”で医大を訴えた女性の裁判について。

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 国のトップが平気で嘘(うそ)をつき、無理が通れば道理引っ込む様を、ここ数年、何度見せつけられてきただろう。怖いのは、そういうアベ政権的話術が感染してしまうこと。涼しい顔で無茶を言い放ち、問題をうやむやにする力業をあちこちで見聞きするようになった。

 最近では医大の“言い分”がアベさん的だった。

 東京医科大、昭和大、順天堂大の3校を訴えている女性(Aさん)がいる。2018年に受験して、本来なら合格圏にいたにもかかわらず不正に落とされ、浪人生活を強いられた。現在は第1志望の国公立大医学部で学んでいるが、差別者によってAさんの時間がどれほど奪われ、どれほどの精神的負担を味わったか計り知れない。

 12月6日に第2回の裁判があったのだが、ここで明らかになった事実が衝撃だった。東京医大、昭和大、どちらも得点調整(女性や多浪生を排除するために行われた)後も、Aさんは合格圏内にいたのだ。現役男性に加点したりなどして点数を調整し、それでもなお合格圏内に入った超優秀なAさんを落としたのは、彼女が女性で、そして現役生ではなかったからだろう。

 この事実に対してまず、昭和大の言い分が凄(すご)い。「面接試験の結果、入寮後に他の学生に悪い影響を与える可能性がある」と判断したという。

 Aさんは現役時代に経済的な理由で医学部を諦めた。一度は別の道に進み、自らの経済力で20代半ばに再チャレンジしていた。昭和大はAさんの年齢が高いことを「他の学生に悪い影響を与える」と言いたいようなのだが、もう少し言葉を選べないものか? 自らの差別行為を「他の学生を守るためにやった」と物語る強引さは、官房長官クラスだ。ちなみにAさんによれば、昭和大の面接担当者の一人は、面接時に寝ていたという。

 東京医大の言い分はさらにアベさん的だ。Aさんが得点調整後も合格圏内であったにもかかわらず不合格にした具体的理由は記録にないからわからない、と桜を見る会的なことを言い放ち、その上で、「Aさんは得点調整しようがしまいが、不合格。だから得点調整の被害者じゃないでしょ」と妙な開き直りをみせたのだ。

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北原みのり

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北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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