「日本にとって韓国という国は多くの国の中のひとつ。そのため、日本の教科書では韓国については“ワンオブゼム”の扱いになります。日本は明治維新から成長する過程で、アジア侵略を行った。ですから、1945年(終戦)まで韓国についての記述は何ページもありません。しかし、韓国は日本の植民地支配下となりましたから、韓国の教科書の近代史は1875年の『雲揚号事件』(江華島事件、韓国の江華島付近で起きた当時の日朝の武力衝突事件)から始まって1945年の解放(日本の終戦)に至る70年の歴史について100ページ以上にわたって記述します。日本の歴史教科書の韓国に対する記述と比べると天と地の差でしょう。そのため、日本人学生と韓国人学生の間に知識の差が生じる」

 日本の植民地時代の記述の中でも目を引くのは「抗日運動」についての記述が豊富なことだ。

 韓国では、朴槿恵前大統領時代に教科書が進歩寄りに偏向しているという理由から、検定制から国定化へ舵を切り物議を醸した。しかし、周知のとおり、朴前大統領は弾劾、罷免され文在寅大統領が誕生。国定化は白紙となり、来年には改訂版が出る予定だ。改訂版の内容についてはまだわからないが、韓国紙の教育担当記者はこう話す。

「朴前大統領を弾劾に追い込んだキャンドルデモが大々的に盛り込まれるともいわれていて、そのキャンドルデモは抗日運動から続いているという解釈になる」

 前出の鄭教授は韓国教科書の記述のトーンは韓国という国が近代国家をどうつくってきたかに重きが置かれている、と解説する。

「つまり、日本の植民地支配と対立して韓国が展開した独立運動が“主”になるほかありません。抗日運動のようなものなどは強く記述されていくしかないですし、それはもちろん韓国人の歴史認識につながります。現代史は1945年から現在まで、時間的にいえば70年あまりです。時間的に近代史とほぼ同じでも、現代史において韓国の教科書で日本に関するページは数ページにも満たない。現代の日本についての記述はほとんどなく、書かれている内容は慰安婦、韓日基本条約、独島問題の三つです。つまり、歴史認識を巡る葛藤が書かれている。だから、現代日本に対して歴史の授業で学ぶのはすべて葛藤と対立なのです」

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