「2011年の憲法裁判所が出した『行政不作為』の判決により、元徴用工の裁判においても、薄々ですがその方向性は予想できた。判決が出てしまえば韓日間にはまさに回復が難しい紛乱が生じる。三権分立の国家では判決を履行しなければならないですから、判決前に解決したほうがいいことは明らかでした。ですから、当時、韓日政府が、韓日企業が互いに協議して基金や財団をつくったりすることを論文などで提案しました。『韓日友好協力基金』や『韓日未来財団』という名称まで構想した。今でいう2プラス2です。ですが、当時はいずれも注目されませんでした」

 再上告審は朴前大統領時代に延長され、5年間保留されたが、これは前政権の意向により故意に先送りされたとして現政権の「積弊清算」の対象となり、昨年8月には審理が始まり、10月30日に判決が出た。そもそも元徴用工への大法院の判決は、日本の植民地支配が違法だという立場から出ている。1965年の請求権協定締結時も日韓はこの部分で揉めに揉めたといわれ、結局は、「もはや無効である」という曖昧な表現になった経緯がある。

「今回の日韓の葛藤の底辺にあるのは韓日の相互不信です。それは、1965年の『韓日基本条約』『請求権協定』を韓国が遵守するか否かを日本が疑っているところにありました。韓国政府の態度がある時は韓日基本条約の不足している点をしきりに話をするので、そのため日本は疑心暗鬼になっている。ともかく、この問題は文大統領と安倍首相しか解決できない。韓日が対座して話そうとするならば、まず、その不信を解消しなければなりません。1965年の基本条約に対する理解を共通のものにすることが先決でした。10月24日に、訪日していた李洛淵首相が安倍首相に『韓国政府も韓日基本条約や請求権協定を遵守してきたし、今後も遵守する』と話しましたが、文大統領も再確認しなければならない。その枠組みで解決できる方法を模索していけばよい」

 韓国では最近、第3期の日韓歴史共同研究の開催を求める声も上がっている。

「繰り返しになりますが、こういう問題において解決する過程で歴史認識の問題は直ちに解決できるものではありません。ただ、歴史研究者に任せて、異なる点は異なる点なりに、同じ点は同じ点なりに反映させて教科書などを製作して、国民にもその内容を発信していけば、尖鋭な対立を緩和させる、平常心を持つようにすることは可能ではないでしょうか」

 元徴用工の判決を巡り、日本企業の資産の現金化も取り沙汰されている。

 今回の日韓の深い葛藤と対立を後世、両国は歴史にどう記すのか。

 今こそ相互理解が求められているターニングポイントといえまいか。(在ソウル=菅野朋子)

週刊朝日  2019年12月6日号