この舞台が終わると、来年の3月に上演されるミュージカル「アナスタシア」の稽古が待っている。「アナスタシア」は、オーディションで役を勝ち取った。

「ミュージカルでは、みなさん競争を掻い潜ってきているから、ストレートプレイとはまたエネルギーが違う。それが終わると、えっと……、私、来年何周年?」

 先々のスケジュールを思い出しながら、近くにいたマネジャー氏に、唐突に質問した。

 すると、即座に、「50周年!」と返事が。

「そう。おかげさまで50周年なんです(笑)。来年古希でしょ。まさかこの年まで舞台に立てるとは。明神様に感謝です。そこからまたちょっと先に、すごく大変な芝居が待っていたり。けっこう先まで、お話はいただいています」

 毎年平均2~3本の舞台に出演しているが、一昨年に菊田一夫演劇大賞を受賞した作品は、「8月の家族たち」と「炎 アンサンディ」。「8月の~」では、映画でメリル・ストリープが演じた病を患う母親の役。「炎~」では、レバノンの内戦に巻き込まれた女性の10代から60代までを演じた。

 翻訳物の、重厚なテーマを扱った作品が多い印象があるが、作品のオファーがあった時に、「麻実さんに断られたら、(この作品は)やりません」と言われることも少なくないらしい。

「私自身、肌合い的に、ほのぼのした、わかりやすいお話よりも、ややこしかったりどこか複雑だったりするお話が好きです。お引き受けしてから、『どうしよう?』と悩むんですが、お芝居に関しては、苦しむのがけっこう好きみたい(笑)。自分がまだまだやりたいと思える作品との出会いがあるということはありがたいことですし、感謝もしています。元気なうちに、いろんな経験をしたい」

 宝塚を退団してしばらくは、麹町に部屋を借り、一人暮らしをしていた。その頃は、皇居の周りを散歩するのが好きだった。結婚してからはまた、生まれ育った神田の近くに戻ってきた。

「今も、散歩は大好きで、天気がいい時は、東大のほうまでてくてく歩きます。下町を歩いていると、そこかしこに、日常の息遣いが感じられるのが楽しいし、嬉しいんです」

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