トップになって5年、35歳で宝塚を退団。そこからの10年ほどは、「シカゴ」や「マクベス」「蜘蛛女のキス」など、翻訳物のミュージカルやストレートプレイに次々に挑戦し、外国の演出家とばかり組んだ。でも、麻実さん自身は、井上ひさしさんの描く、人情味溢れる舞台が好きだった。

「小説なら山本周五郎とか。江戸の下町の世界が好きで。井上先生とお会いするたびに、『私はこう見えてすごく日本的です。モンペも似合います!』とアピールしていたら、ようやく『箱根強羅ホテル』という作品に出していただけることになりました。でも、最初にいただいたのが外国人の役で(笑)。『それじゃあいやです!』と抵抗したら、『変わったよ』と連絡がきて、結局ハーフの役でした(笑)」

 遅筆で有名な井上ひさしさんのこと。「箱根強羅ホテル」でも、初日ギリギリに最後のセリフができあがったほど。さぞかし現場はハラハラしていたかと思いきや、「不思議なことに、新聞の小説のように、ちょっとずつ来るのが楽しくなっちゃったんです(笑)。ハラハラするのを忘れちゃうほど、毎日の原稿をみんなで楽しみに待っていました」。

 現在上演中の舞台「ドクター・ホフマンのサナトリウム」の作・演出はケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)さん。KERAさんの演出を受けるのは、3年前の「8月の家族たち」以来2度目だ。

「前回はKERAさんが上演台本を担当されていましたが、今回はオリジナルで、しかも、ありもしない『最近発見されたフランツ・カフカの遺稿』がモチーフ。斬新なセットがあって、ミュージシャンが4人いて、小野寺(修二)さんの振り付けが入って、コント的な小さなエピソードがつながっていく。とてもセンスが良いお芝居になっています。でも、お稽古をしていて楽しいのは、大倉(孝二)さんとか、KERAさんの劇団(ナイロン100度)に所属している、コントパートを任される役者さんが、本当にうまいこと。KERAさんの右腕みたいな感じで、“阿吽の呼吸”ってああいうのをいうんだろうな、って」

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