2科目を落としたが、同年10月の2度目の試験で合格。言語表現、造形表現の実技試験は、懸命の努力の甲斐あって一発合格。17年1月に合格通知を受け取った時、「武者震いした」そうだ。資格取得までにかかった総費用は11万円強。

 すぐに、人材仲介会社を通じて勤め先を探した。パソコンのサイトに年齢を登録しようとすると、「60代」の選択肢がなく、アプローチできなかった。そこで、紙の履歴書に、経歴と保育の仕事への熱意を綴(つづ)った自己紹介文を書き、郵送した。結果、第1志望の保育所への就職が決まった。体力などを考慮し、週3日、8時から17時までの勤務だ。

「今? 3、4歳のクラスの副担任で、『じじ先生』と呼ばれて人気あるんですよ(笑)。登園してきた子が飛びついてくる時、『一緒に遊ぼう』とせがまれる時、その子が嫌いだった野菜を昼食で食べられた時、保護者から信頼されていると感じる時……。ジーンとくる瞬間がしょっちゅうです」

 勤務している保育所では総勢約20人の保育士の中で飛び抜けて年上。やりにくいことはないかと尋ねると、高田さんは「今はないですね」と即答し、こう続けた。
「経験は生かすが、プライドは捨てましたから」

 上司は20代の女性だ。新任の頃、教室の中央で子どもと遊んでいると、いきなり「その立ち位置はダメ。(教室の)角へ行って」と指示された。カチンときたが、「真ん中にいると片側しか見られず、死角ができる。角なら教室全体を見守れるという理由だと後で分かり、納得しました」。

 自分は部下に指示する時、理由を先に述べるなど配慮してきた。しかし、若い彼女らの物言いはストレート。「私はニューカマーなのだから、つべこべ思わず受け入れよう」と割り切った。それが、プライドを捨てることだった。

 高田さんは、「健康である限り、保育士を続けたい」ときっぱり。さらに、働く中で見えてきた保育士らの婚活問題に寄与できる仕組みを作ろうと、新たな取り組みを始めている。(ノンフィクション・ライター 井上理津子)

週刊朝日  2019年11月8日号