「耳鳴りがあるか、ないかというより、気にするか、気にしないかの違いだと思います。耳鳴りがあっても気にしない人もいれば、すごく気になる人もいて、その違いは、性格や考え方、感じ方、環境や記憶など、さまざまな要因によるものと考えられます。気になりやすい人は、意識してしまうことで、よけいに耳鳴りが気になり、重症化しやすい傾向があるため、早めに治療をすることが望ましいでしょう」(神崎医師)

 耳鳴りのほとんどは、難聴が原因で起こる。加齢性難聴だけでなく、突発性難聴や薬剤性の難聴、メニエール病、大音量で音楽を聴くことなどによる音響外傷、耳硬化症などは、耳鳴りが起こりやすい病気だ。また、聴神経腫瘍や脳腫瘍などで耳鳴りが起こることもある。

「突発性難聴やメニエール病など、病気が原因で起こる耳鳴りの場合は、早期に原因疾患の治療をすることが大切です。治療により病気が治ることで、耳鳴りが軽減、改善することもあります」(高橋医師)

 耳鳴りの治療について、「残念ながら日本は諸外国と比較してだいぶ遅れている」と神崎医師は指摘する。

「多くの医療機関で、世界標準的な治療がおこなわれていないのが現状です。あまり効果の期待できない治療がおこなわれ、改善しなくても『年のせいだから仕方ない』『様子をみましょう』と言われ、納得できない患者さんが次々と別の医療機関を受診するドクターショッピングが多くみられます」(神崎医師)

 その理由について、高橋医師はこう話す。

「耳鳴りには、100%効果があるという明確な治療法がまだありません。海外では、治療の指針となるガイドラインが作成されていますが、日本にはこれまでなかったため、治療の基準がなく、有効な治療法が耳鼻科の中でもあまり理解されていませんでした」

 そのため、治療の標準化と、エビデンス(科学的根拠)に基づく適切な診断と治療の普及を目的として、2019年に日本で初めての「耳鳴診療ガイドライン」が発行された。

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