現在、国内で耳鳴りの治療として最も多くおこなわれているのは薬物療法だ。主に、ビタミン製剤や血流改善薬、血管拡張薬、ステロイド製剤、抗不安薬、抗うつ薬、漢方薬などが処方されているが、ガイドラインには、現在使用されているほとんどの薬剤で、耳鳴りへの効果は認められていないと記載されている。ただし、抗うつ薬については、うつ症状を伴う耳鳴りには改善効果が期待できるとされている。

 ガイドラインで推奨されている治療法は、耳鳴りの「教育的カウンセリング」と、補聴器療法を含む「音響療法」だ。

 教育的カウンセリングとは、患者に対して、聞こえのしくみや耳鳴りが発生するメカニズム、悪化するしくみ、治療方法などを説明する方法。「とくに、耳鳴りに対して不安や苦痛が大きい患者さんには有効」と高橋医師は話す。

「耳鳴りの治療の目的は、『耳鳴りを消すこと』ではなく、『耳鳴りによる苦痛や不快を軽くすること』。耳鳴りは、それ自体はあっても問題なく、治療が必要な病気によるものでなければ、放っておいてもかまいません。耳鳴りがあっても気にならない人、困っていない人は治療をしなくてもいいのです。耳鳴りがどうして起こるのかを知り、脳の病気の予兆などではないこと、耳が聞こえなくなることもないことなどを理解し安心できることで、耳鳴りが気にならなくなる人も多くいます」(高橋医師)

 音響療法とは、耳にさまざまな音を入れることで相対的に耳鳴りを感じる強さを減らし、耳鳴りへの順応を促して、苦痛を和らげる方法。難聴がある人は、補聴器による音響療法が推奨される。補聴器をつけると、不足している音が脳に届くことで、脳の過剰な興奮が抑えられる効果や、まわりの音がよく聞こえるようになることで、耳鳴りの音が気にならなくなる効果が期待できる。加えて、音や会話が聞き取りやすくなることでストレスや疲労が軽減されるメリットもある。

「耳鳴りで困っていたら、まずは補聴器相談医のいる耳鼻科を受診してください。難聴の治療を積極的にしている耳鼻科では、耳鳴りの治療もできることが多いです。難聴があるか、治療できる病気かどうかも含め、必要な検査をして適切な診断をしてもらうことが大切です。そのうえで、適切な治療法を相談し、もしその病院で耳鳴りの治療ができない場合には、ほかの病院を紹介してもらうといいでしょう」(同)

(ライター・出村真理子)

週刊朝日  2019年9月20日号