九回表無死一塁、敦賀気比の3番・杉田が右中間へ2点本塁打を放ち、史上6人目のサイクル安打達成(撮影/写真部・加藤夏子)
九回表無死一塁、敦賀気比の3番・杉田が右中間へ2点本塁打を放ち、史上6人目のサイクル安打達成(撮影/写真部・加藤夏子)
一回表2死、敦賀気比の杉田が中前安打を放つ(C)朝日新聞社
一回表2死、敦賀気比の杉田が中前安打を放つ(C)朝日新聞社
二回表1死一、三塁、敦賀気比の杉田が左翼線に2点適時二塁打を放つ(C)朝日新聞社
二回表1死一、三塁、敦賀気比の杉田が左翼線に2点適時二塁打を放つ(C)朝日新聞社
五回表1死二塁、敦賀気比の杉田が右中間適時三塁打を放つ(C)朝日新聞社
五回表1死二塁、敦賀気比の杉田が右中間適時三塁打を放つ(C)朝日新聞社

 令和最初の夏の甲子園で偉業が達成された。第101回全国高校野球選手権大会第8日の13日、敦賀気比(福井)の3番・杉田翔太郎が、2回戦の国学院久我山(西東京)戦で、第86回大会以来15年ぶりとなるサイクル安打を達成した。

 まずは一回の第1打席。2死走者なしの場面で、先発・高下耀介の7球目を右翼へ引っ張った。敵失につけ込んでそのまま二塁へ進塁すると、直後の4番・木下元秀の左前適時打で先制のホームを踏んだ。

 続く二回の第2打席では、1死一、三塁の好機で2球目を左翼へ流し打った。2点適時二塁打となり、味方打線をさらに活気づけた。三回の第3打席では、2死満塁で中前に2点適時打を放ち、リードをさらに広げた。

 五回1死二塁で迎えた第4打席は、カウント1―2の5球目を振り抜き、右中間を破る適時三塁打。4打数4安打でサイクル安打達成に王手をかけた。

「1打席目から4打席目は『ライナー』と『逆方向』の意識で打席に立ったことが、ああいう打席につながった」(杉田)

 球場の関心は杉田の本塁打へ――。迎えた第5打席は、七回無死二、三塁の好機。国学院久我山は3番手投手から再び高下に代わったたところだった。ベンチからも、「あと一本、ホームランでサイクルやぞ!」との声が飛んでいた。

「5打席目は(向かう前に)ベンチで『ホームラン』と言われて大振りになってしまった」(杉田)

 大記録を狙って初球を振り抜いたが、打球は左翼手のグラブに収まった。

「大きいのを狙って悪い打席になってしまった」

 だが、野球の神様は杉田を見捨てていなかった。九回無死一塁、第6打席がまわってきた。

 やはりベンチから本塁打を期待されたが、直前の打席を反省した。再び、「ライナー」と「逆方向」、そして後続につなぐことを意識した。

 そして、カウント2―1からの4球目。「高めにきた」と感じた球をたたくと、思いのほか打球が上がった。浜風と逆方向に吹く風に乗って、右中間スタンドへ伸びていった。

 サイクル安打達成。2004年の第86回大会で優勝した駒大苫小牧・林裕也以来、史上6人目の偉業を成し遂げた。杉田はチームトップの7打点を挙げ、試合は19―3で大勝した。

「素直にうれしい。まさか自分がこんなことできると思ってなかった。後ろにつなぐ意識が良い方向に出たかなと思うのでよかった」

 6番・野道大誠が明かす。

 「監督が『え、サイクルやん』と言ってました。(杉田)本人にはあまり言ってなかったです」

 ミート力は杉田がチーム一だという。

「(バットの)芯に当てるのがうまい。ホームランも打てて、逆方向にも強い打球を打てる。状況に応じたバッティングがうまいです。あいつが打席に立ってくれたら、何かやってくれる。ランナーがいない場面でも、長打で出ていきなりチャンスを作ってくれるし、凡打でも次につながるバッティングをする。結構そこから攻撃がつながるんです」(野道)

 昨夏の第100回大会では、スタンドから声援を送った杉田。チームは1回戦で木更津総合(千葉)に1―10で敗れた。

「(昨年の3年生は)バッティングも強くて学ぶことがいっぱいあったんですけど、そんな先輩たちでも大敗してしまう舞台が甲子園。自分たちは先輩たちの借りを返す気持ちで来て、2試合勝った。先輩たちのリベンジはできていると思います」

 チームにとって5年ぶりの3回戦に向けて、杉田は気を引き締めた。
「まだ満足せずに、あまり先を見ないで、一つ一つ目の前の相手を倒す。そこだけだと思います」(本誌・緒方麦)

※週刊朝日オンライン限定記事