6千人の芸人を抱えるお笑い帝国を築くのに協力し、そのパワーを利用してきたテレビ局も、視聴者の不満を無視できなくなっている。日本テレビやテレビ朝日などは、事実関係の調査や再発防止を申し入れている。吉本とテレビ局の関係を巡っては、亮が7月20日の会見で次のように不信感を訴えていた。テレビ局としても、改善に取り組む姿勢をアピールしなければならないようだ。

「僕がすごく不審に思ったのが、『在京5社、在阪5社のテレビ局は吉本の株主やから大丈夫やからと』言われました。何が大丈夫なのかわからないけれども、僕たちの言うことが、本当の気持ちが伝わるかどうか。ネット(での生中継)を止めようとしたという風に感じてしまいました」

 また、大崎会長と行政や政治との“蜜月”ぶりも、クローズアップされた。吉本がNTTと組んでやる教育コンテンツ配信事業には、官製ファンドのクールジャパン機構が最大100億円を出す予定だ。公的資金による事実上の“補助金”とも言えるだけに、吉本の経営体制は納税者からも厳しくチェックされる。

 芸人の待遇改善も具体策はこれから。公正取引委員会の指摘も受けて、希望者には改めて契約書を交わす方針だが、書面の内容は見えてこない。

 ギャラの配分については、淳が文化放送のラジオ番組で、「この番組のギャラや自分にどれくらい入るのか割合を発表します」と発言。複数の芸人も「1円」や「数百円」といった支払い明細書を公表して、会社の“ドケチぶり”を嘆いている。

 吉本は専門家による経営アドバイザリー委員会を設置し、法令順守やギャラの問題などを議論する。当初は8月2日までに初会合があるとみられていたが、委員の選任に時間がかかったこともあって8月5日以降になりそうだ。この委員会が独立性のある公正な議論ができるかどうかも問われる。

 改善策が期待はずれだと、芸人たちが再び経営陣への批判を始める可能性もある。会社側に恭順の意を示した淳も、会見で次のように語ったように、不満があることは認めている。

「ひとつだけ会社が変わってほしいところは、ファミリーなんだったら、ファミリーとして扱ってほしいなというところですね。僕はファミリーじゃなくていいと思ってる派なんですよ。すごくドライで、契約書があって、そこのつながりがあったらいいなって思ってるんですけど。会社がファミリーを推すのであれば、ファミリーとして6千人を見ていってほしいなと思います」

 果たして6千人はこのまま黙り、経営トップは続投するのか。不祥事をちゃかすだけではファンの信頼回復は望めない。
(本誌・太田サトル、池田正史、多田敏男)
※週刊朝日オンライン限定記事

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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