強度近視になると、なぜ病的近視になる可能性が高くなるといわれているのか。前述したように、強度近視の人は眼軸長が長い。

「風船を大きくふくらませると、風船の厚みがどんどん薄くなり、最終的に破裂してしまいます。眼球も眼軸長の伸長とともに眼の組織が引き伸ばされることで、各組織が薄くなり網膜剥離が起きやすくなったり、眼底出血が起きたり、視神経が障害されたりするのです」(鳥居医師)

 眼軸長が長くなると、眼球の後方が飛び出したようになり、「後部ぶどう腫」と呼ばれる状態になりやすい。これが病的近視の始まりだ。

 病的近視は大きく分けて、4つの種類がある。一つ目は「網脈絡膜萎縮」で、眼球の変形によって網膜や、網膜に栄養を送っている血管が多い「脈絡膜」が薄くなり、網膜と脈絡膜が萎縮する病気だ。杏林大学病院眼科主任教授の平形明人医師はこう話す。

「網脈絡膜萎縮の程度が強いと、視力低下の原因になります。同時に萎縮以外の病気も合併していることが多い状態です」

 網膜が薄くなっているうえに、眼球の中身を埋めて網膜にくっついているゼリー状の「硝子体(しょうしたい)」が加齢によって変化し、網膜を眼球の内側に向かって引っ張ることで起こるのが、二つ目の「近視性牽引黄斑症(きんしせいけんいんおうはんしょう)」だ。網膜がはがれる「網膜剥離」やその前段階で網膜の層が分かれる「網膜分離」を引き起こす。網膜の中心部にある「黄斑」に孔が開く「黄斑円孔」が起きることもある。硝子体の性質が変化したサインは、目の前に小さなゴミのようなものが見える「飛蚊症」の悪化だ。ものがゆがんで見える(変視症)、中心が欠けて見える、あるいは視力が低下するなどの症状は、牽引黄斑症の初期で見られることが多い。

 また脈絡膜が萎縮していく過程で、脈絡膜から網膜に向かって「新生血管」という病的な血管ができて増殖するのが3つ目の「近視性脈絡膜新生血管」だ。ものがゆがんで見えたり、視野の中央が黒く見えたりすることがある。

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