富山市郊外で暮らす70代の男性は16年、親から譲り受けた休耕田に2階建て8戸のアパートを建てた。電柱やガス管の設置費用がかさみ、総工費はなんと1億円。9千万円近くを地元銀行で借り、毎月約30万円の返済が100歳を超えるまで続く。

 男性は大手ハウスメーカーに「相続税を減らせる」と誘われた。借金が増えれば資産額が減り、農地に賃貸住宅を建てれば税率も下がるため、亡くなるときの相続税が減る見込みは確かにある。だが、賃料は新築時で1室6万円。ハウスメーカーの割高な建築費や銀行への利息払いを取り返すのはいかにも難しそうだ。

 日銀の金融緩和にも背を押され、新築アパート(貸家)の着工戸数は激増し、16~17年に41万戸台に達した。富山県で前年比36.7%増(16年)となるなど地方でも異様な過熱ぶりだったが、需要を大幅に上回り、空室率の上昇につながっている。

 安定した家賃収入が得られるとうたう大手ハウスメーカーは、アパートを借り上げて賃料を払う「サブリース契約」を交わし、無知な顧客を安心させる。ところが、契約の中身をよく見れば、賃料は10年おきに見直されるものが多い。

 アパート乱立による空室率の上昇は家賃相場を押し下げ、10年後の賃料水準の引き下げにもつながる。今回の投資ブームから10年後の20年代半ばには、期待した収入を得られず、収支も合わなくなる事例が続出するおそれもあるが、破綻でツケを払わされるのは投資した本人にほかならない。

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 スルガ銀行のデタラメな所業をきっかけに、業者が預金通帳や給与明細を偽造し、賃貸契約書まで捏造して客をダマしまくる実態が続々と明らかになった。スルガ銀は不正を続けられなくなり、一部業務停止処分を受けて1千億円規模の損失を計上。同行を「地銀の優等生」とベタ褒めした金融庁は「反省」の弁を述べ、過熱する不動産投資向け融資に他の金融機関の視線も厳しくなった。

 だが、私文書や公文書を偽造しまくる実行役で、不正融資を元手にボロ儲けする不動産業者にはほとんど何の沙汰もなかった。

 スルガ銀の不正に関与した業者は東京都内だけで軽く100社を超える。その多くは国土交通省や東京都から宅地建物取引業の免許を与えられるが、業務改善命令が出たのは今春までに2社だけ。多くは社名を変えるなどして、次の獲物を虎視眈々と狙っている。

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