暴利をむさぼる不動産業者による不正が「猛威」をふるっている。相続税などの節税、年金だけでは老後資金が2千万円不足するなどの「不安」にもつけ込み、甘いウソだらけのセールストークで借金地獄へと突き落とす。不動産投資の「カモ」とならないための“トリセツ”とは──。
ニッポンの新たな不動産投資ブームは、第2次安倍政権発足前後の12年から沸き起こった。日本銀行の大規模緩和で銀行の貸し出しがユルユルになり、貯蓄や収入が乏しい人でも、預金通帳や源泉徴収票を改ざんして融資を引き出す不正が大流行。投資対象は当初のワンルームから、金額の大きい1棟アパートや中古マンションへ広がり、現役世代に浸透する将来不安にもつけ込む形で、不動産業者が多くのカモを「借金地獄」に突き落としてきた。
無数の不正が発覚したシェアハウス投資問題も、ブームの一角を占める。スルガ銀行(静岡県沼津市)が融資した分だけで、1200人超の会社員らが計2千億円超の借金をし、1千棟超の木造シェアハウスを建てまくった。割に合わない高額家賃を約束した業者は破綻し、まともに貸しても収入は激減。不正に加担したスルガ銀から借金返済を迫られ、破産の崖っぷちに立たされる会社員が続出しているのだ。
東京郊外で暮らす老夫婦のもとには17年秋、取り乱した娘が電話してきた。
「もうおしまい。死ぬかもしれない」
40代で年収1千万円台のエリート会社員である娘の夫が、知らないうちにシェアハウス2棟を建てる契約を結び、2億円の借金を背負った。年8%の高利回りだったが、賃料を受け取れないことが着工前に判明。更地を売ろうにも相場より数千万円も高く買わされていて、身動きが取れないまま月100万円の借金返済が始まった。
その夫は「幼い子どもを将来、安心して大学に通わせたかった」と動機を語るが、間を置かず訪れたのは離婚と破産の危機だった。
「娘婿にも非はあると思う。でも、ウソで騙した不動産業者はもっと悪い。なんとか娘の敵を討ちたい」
老母はそう息巻いた。娘婿らは弁護士とともに、業者やスルガ銀を相手取り、不当な利益の返還や借金の減額を求めて争っている。
15年の相続税強化を背景に不動産投資に走った富裕層の間でも、「負債」は着実に膨らんでいる。