「同乗者も運転者であるという認識を持つことが大事です。消防や救急の車も必ず同乗者が声をかけ、注意喚起しています。皆で一緒に注意して運転をすることが事故防止につながります」

 ただ、NPO法人高齢者安全運転支援研究会の平塚雅之事務局長によると、声かけの仕方には注意が必要だという。

「高齢者は運転に対する自信が人一倍強いので、同乗者は過剰に指摘しないことが大事。指摘後、改善しようという気持ちが見られれば、しばらく様子見でいいでしょう。聞く耳を持たない、改善が見られないのであれば、赤信号と言えます」

 最近では、安全運転サポート車(サポカー)もある。被害軽減(自動)ブレーキやペダル踏み間違い時加速抑制装置などが搭載されている車のことだ。

 だが、頼りきるのはいけない。前出の岩貞さんはこう語る。

「サポカーがあるからといって、最近見られるような死亡事故は減りません。自動ブレーキで言えば、運転者がアクセルを強く踏んでしまえば、車は加速したいんだと判断してそちらが優先されます」

 サポカー以外にも、近年は様々な車、装置が開発されている。踏み間違いが起こりえないペダルを作って話題になっているのが、本県玉名市の「ナルセ機材」だ。もともとあるアクセルペダルを外し、ブレーキペダルに取り付けた自社開発の「ワンペダル」でアクセル操作もできるようにした。

 岩貞さんは欧州の車について触れる。

「運転者が任意の速度を設定して速度制限ができるもののほか、父は50キロ制限、息子は80キロ制限といったような、キーごとに制限速度を設定できる車両の開発が進んでいます」

 前出の平塚さんは言う。

「ユーザーカスタマイズは(国産車にも)今後必要な概念。現状、ブレーキとアクセルのペダルは重要保安部品のためか、高さなどの変更ができません。足の上げ下げなどの可動領域には個人差があるので、運転者にとって最良の設定ができるようになってほしい」

 車そのものの機能で安全性を高めたい場合、こんなウルトラCも考えられる。

「マニュアル車の運転がオススメです。クラッチを踏む動作が入り、踏み間違いによる事故を起こしにくくなります」(岩貞さん)

 80代の両親がマニュアル車に乗っているという、東京都内の40代女性はこう話す。

「何かあればエンストで止まるという意味では、マニュアル車に安心感があります。筋力低下などでクラッチを踏めなくなったら、運転卒業の時期だと思っています。ただ、別々に暮らしているので親の運転を見ることがあまりなく、気が気ではありません」

 そんな家族の不安を和らげる自動車保険の特約サービスがある。ドライブレコーダー(ドラレコ)を契約者に提供する、東京海上日動火災保険の「ドライブエージェントパーソナル」だ。

 17年に業界で初めてこのサービスを導入し、19年3月末時点で契約件数は22万件。そのうち約3割が65歳以上の運転者だという。

「運転中、リアルタイムで事故多発地点を知らせたり、危険挙動を注意喚起したりしながら、お客様の運転を記録しています。年に1度、分析結果の『安全運転診断レポート』を提供しているので、ご自身はもちろん、ご家族で運転を振り返るきっかけにしていただければ」(担当者)

 事故発生時には映像がセンターに自動送信され、オペレーターとの通話も可能。即座の事故対応もできる。

 ドラレコを活用した特約サービスは、損保ジャパン日本興亜や三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険にもあり、ドライバーに合ったものを選びたい。(本誌・秦正理、岩下明日香、多田敏男)

週刊朝日  2019年6月21日号