仮にあのとき「これから、自分は社会的にどうなるんだろう」とか何かで怖がって演じたら、演技もダメだったと思うんです。僕はこの物語を純粋な話だと心から思ったんです。

 それに自分が賭けたんだから、それでダメになったらそれでいい、と。

 実際、あの2年間、毎日が楽しくて仕方なかった。当時はスカッシュに凝ってましてね、毎日スカッシュざんまい(笑)。もう結婚して息子もいたのに全然気にならなかった。すごいエネルギーがあったんです。「大丈夫だ!」という根拠のない自信みたいなものがね。それに周囲にネガティブな見方をされると、それをポジティブにしてやろう、乗り越えてやろう、と燃えるじゃないですか。

 で、2年後に大島さんの「愛の亡霊」に出演し、その後にNHKの銀河テレビ小説で主役の話がきた。

――実は68年、日活のスターだった芦川いづみさんと結婚したときも、冷たい目で見られたという。藤さんが、俳優として現在ほどの地位を築く前のことだ。

 彼女とは一緒に仕事をして、まあそういうことになって、1カ月くらいで結婚したんです。どんなところがよかったかって? そりゃあわかりませんよ(笑)。言葉で説明できないでしょう。でも1カ月ですから、なんとなくね、お互いに何かを感じたんでしょうね。

 結婚後、女優をやめる、というのも彼女の意思です。これはよほどがんばらなきゃ、と思いましたよ。

 でもね、当時はスタッフもみんな僕のこと「無視!」ですよ。そういうのがね、僕は好きなんですよ。どちらかというと打たれ強いのかもしれない。そういう状況になるとアドレナリンが出るんです。「ようし、おもしれえじゃん!」みたいな。それに少数だけど僕を支持してくれる人もいてね、むしろ結婚後のほうが野心的な役をもらえるようになりました。

――俳優人生も56年。さまざまな役を演じてきた。新作「初恋~お父さん、チビがいなくなりました」は結婚50年ほどになる夫婦が主人公。藤さんは飼いの「チビ」を可愛がる倍賞千恵子さん演じる妻に、ある反乱を起こされてしまう“亭主関白”な夫を演じている。

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