「いざ介護生活が始まれば、施設料金に加えて、病院への送迎費用や付き添い費用など、意外と諸経費がかさみます。施設の入居時に必要なお金と諸経費を考えて、毎月の年金とは別に、現金で300万円ほどは取り置いておきましょう」

 特に施設を嫌がる気持ちが強い場合など、施設に入居した後、利用者の状態や経済状況の変化など、何らかの理由でやむを得ず退居しなければならないこともある。その場合、入居から90日以内であれば、クーリングオフが適用されて、居住した期間の家賃分と、居住空間の原状回復費を除いた全額が返ってくるが、それを過ぎると償却分があるため全額は返ってこない。入居1年後に解約しても、返ってくるのは50%以下になる場合もある。償却には、償却期間や償却金の算出方法が設定されているため、入居時に確認しておこう。

 加えて大切なのが、必要なときに施設に入れるかどうか。希望の施設にすぐに入れず、しばらく自宅や別の施設で過ごすために、介護用ベッドを購入したり、一時金を払ったりすれば、余計な支出が増える。それを防ぐためにも、施設入居がちらつけば、早めに見学しておいたほうがいい。

 その際、デイサービス(通い)やショートステイ(泊まり)など、体験入居をしておけば、より安心。段階を踏むことで、施設に対する漠然とした不安が拭われるケースも多い。

「体験の段階を踏むことは、親子ともに気持ちの折り合いをつけるのにも役立ちます。今は明るくクリーンな雰囲気の施設も多く、自立型の施設を選べば自由度も高い。高齢になれば、家の維持も大変になってくるので、住み替え感覚で自立型の自由度の高い施設に移るのも賢い選択です。結果的に、家より快適に過ごせるという人も多いですよ」(黒田さん)

 いくら自宅を希望しても、子どもなど家族の負担が重くなることで、施設に入るのを避けられないこともある。子どもや家族にとっては、親を施設に入れることへの葛藤やためらい、罪悪感に折り合いをつけるのも容易ではない。

 正解がない問題だが、大切なのは当事者にとって何が幸せで、どういった形なら心身、経済ともにバランスを保てるか。まだまだ元気と思えるうちに、じっくり考えてみてはどうだろう。(本誌・松岡かすみ)

週刊朝日  2019年4月12日号より抜粋

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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