「施設にいると、あんな笑顔は見られない。ここにいると、こちらもなんだかうれしくなります」

 昼どきだったこともあり、カフェは大盛況。40代の女性は夫と70代の母親と一緒に熱海から来た。「認知症の人でもこうやって働ける。それにびっくりですし、ほっこりしますね」とほほえむ。店内には、お冷やをつぐために席をまわるしっかり者のスタッフもいれば、空いている席に座って、お客さんと談笑するスタッフもいる。「それでもいいんじゃない」。店内はそんな温かな雰囲気だ。

 地元で「注文をまちがえる料理店」を開きたい。グループホーム乃えんを運営する川井悠司さんがそう思ったのは、半年ほど前のこと。直後に豆腐料理店・湯河原 十二庵の代表、浅沼宇雄(たかお)さんとつながり、「豆腐屋カフェ」が誕生した。

 スタッフは5人1チームとなり、1時間半ずつ働く。今回は71歳から94歳まで(たまたま全員女性)の18人が集まった。

 メンバーは川井さんの関係する施設から募ったほか、同県小田原市や湯河原の介護施設に協力を求めた。雇用契約を結び、報酬も支払う。一方で万全を期して、スタッフ1人に対して介護職員とボランティアが1人ずつ付いた。

 もちろん、カフェとして運営するからには、お金を払ってくれるお客さんに満足してもらうことが大前提。「豆乳スープセット」など、飲みものを含めて10種類。ランチは浅沼さんがオリジナル料理として考案した。

 川井さんは言う。

「最初は緊張もあってこわばっているんですが、それがどんどんほぐれて、笑顔になっていって。お客さんが醸す空気もあって、“今ここで働いている”ことを、少しずつ実感していったようです」

 浅沼さんはカフェの入り口に立って、お客さんに説明する係を担当した。

「多くはチラシなどを見て来てくださった方ですが、なかにはふらっと立ち寄った人もいて。趣旨を説明すると、『え? 何、それおもしろそう』と。そのまま帰った人は一人もいなかったです」

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