テラス席に座る女性客にランチを運んできたスタッフ。配膳も手慣れたものだ (撮影/岡田晃奈)
テラス席に座る女性客にランチを運んできたスタッフ。配膳も手慣れたものだ (撮影/岡田晃奈)
「豆腐屋カフェ」を仕掛け、大成功を収めた川井さん(左)と浅沼さん (撮影/岡田晃奈)
「豆腐屋カフェ」を仕掛け、大成功を収めた川井さん(左)と浅沼さん (撮影/岡田晃奈)
できあがったランチを受け取り、お客さんの元へ運ぶ。もっとも緊張する瞬間だ (撮影/岡田晃奈)
できあがったランチを受け取り、お客さんの元へ運ぶ。もっとも緊張する瞬間だ (撮影/岡田晃奈)

 認知症は怖い。徘徊をするし、暴言も吐く……。そんな印象を持っている人は、一度、「注文をまちがえる料理店」を訪ねてみてはどうでしょう。この店では注文をとるのも、料理を運ぶのも、接客するのも、みんな認知症の人たち。その姿を目にしたあなたは、きっとそのイメージが変わると思います。

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 3月10日の日曜日、花曇りのなか、1日限定で開かれたのが「注文をまちがえる豆腐屋カフェ」。場所は、神奈川県湯河原町にある町立湯河原美術館に併設するand garden。デートの途中に寄りたくなる、おしゃれなカフェテラスだ。

 いつものカフェの光景と少し違っているのは、料理のオーダーをとり、食事を運んでいるスタッフが、おばあちゃんだからだろう。しかも、このおばあちゃんはみんな認知症。料理を間違えるかもしれないし、オーダーをとったことさえ忘れてしまうかもしれない。でも、全然OK。だってお客さんもそのことは織り込み済みだからだ。

 テラス席にいた40代の女性3人組に、緊張した面持ちでオーダーをとっていたのは、スタッフのあやこさん。「注文をまちがえる料理店」のトレードマークでもある、あっかんべーと舌を出した「てへぺろ」エプロンがとても似合う。

 このカフェでは、スタッフがオーダーのとり方を忘れないように、テーブルの上にはメニューが書かれたオーダー表が置かれている。スタッフはメニューにチェックをするだけだから、間違えず、かつ簡単にオーダーが通る。

 だが、それも慣れていないあやこさんには難しそう。戸惑っていると、3人組の一人がオーダー表を受け取り、代わりに書き始めた。「これで、大丈夫!」。

 あやこさんは「ありがとう」と満面の笑みを見せ、手渡されたオーダー表を持って厨房(ちゅうぼう)へ向かった。そんなあやこさんの後ろ姿を見ていた女性たちも顔をほころばせる。実は3人は福祉関係者で、チラシを見て興味を持ったという。

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