「卒業論文を出した後に、使用した『毎月勤労統計』の中の不正問題が表面化したので、どうしようもありませんでした。政府のデータには高い信頼を置いていたのに、裏切られた。僕はまだ学部生ですが、修士や博士課程の論文では、より大きい影響があると思います」

 慶応大学経済学部の土居丈朗教授は、大学の研究者はウェブサイトから簡単にダウンロードして使えるデータに高い価値を置いていないこともあり、論文や研究への影響は少ないとみる。一方で、民間には影響が出ていると指摘する。

「民間エコノミストへの影響は大きい。マクロ経済を予想している人が多く、分析に(官公庁発表の)集計データを使います。日本全体の賃金動向のデータが間違っていると分析結果も間違うことになり、彼らの予想もおかしいとなる。内心『何やってんだ厚労省』と思っているエコノミストは多いのでは」

 厚生労働省に、大学の学生や研究者などから問い合わせがあったか確認したところ、「今のところありません」(担当者)ということだったが、「毎月勤労統計」は賃金という身近なデータを集計しているので、データを用いた学生はほかにいてもおかしくない。厚労省は自らの過ちの重大さを改めて知るべきだろう。(本誌・大塚淳史)

週刊朝日  2019年3月15日号