「AIジョーのブルース」は、シャッフル・リズムを基本にしつつ、無機質なビートにエディットした生演奏を絡ませ、不思議な展開を聴かせる。コンピューターやSNSの情報に支配される人間の嘆き、憂鬱をテーマにした社会風刺だ。

「グッディガール feat. PUNPEE」では曲調が一転する。田島とPUNPEEがかけあいで歌い、ラップする。ユーモラスな展開の陽気なパーティー・ソングだ。

「ハッピーバースデイソング」は打ち込みによるリズミカルな曲。ポップなメロディーで、田島の歌いぶりも甘い。ジャズのアプローチを用いて、ヒップホップ時代のソウルみたいな曲を作ろうと思ったという。田島が“ジャズ・ギターの師”と仰ぐ岡安芳明のソロをフィーチャーしている。

「疑問符」は、シンプルなスイート・ソウル。ニール・セダカの「雨に微笑みを」風のポップなメロディー。ファルセットによる歌はスタイリスティックスを意識したのかも。

「空気―抵抗」は、ヘヴィーなファンク・テイストのジャズ・ロック。『風の歌を聴け』以来の盟友、佐野康夫(ドラムス)、小松秀行(ベース)や、河合代介(オルガン)が迫力の演奏を聴かせる。ゲスト参加の渡辺香津美の超絶的技巧によるギターも圧巻だ。“同調圧力に 屈しないで抵抗しろ~脅されてもひとり 本当のことまっすぐ言え~同調圧力に 盾突いて行け”と挑発的な歌詞だ。

 アルバムの表題曲「bless You!」はオルガンをフィーチャーしたソウル/ジャズ的な演奏展開。田島がジャズ・ギターを披露する。本作のテーマ“人生賛歌”にちなみ、“自分なりのゴスペルのような歌”をめざしたが、当初はなかなか歌詞を書き進められなかったという。亡き母への思いを込め、“生きる”ことの意味、死んでも残り続ける“魂”について考え抜いた詞という。

 アルバムを締めくくるのは「逆行」。オルタナ風のロックから、ストーンズやビートルズ風のドラマチックな展開になる。“流れに逆らえ”と、ここでも田島の信念や姿勢がうかがえる。

 本作は、ジャズ・ギターの研究や、若いミュージシャンとの交流を経て、貪欲に身につけた技術や情熱をぶつけた。緻密で入念な編曲、躍動感に満ちたグルーヴ、アンサンブル……そこに田島の濃密なヴォーカルがのることで見事な一体感を生み出している。田島がやりたいこと、言いたいことのすべてを全力投球した力作。今後の音楽活動に対する強い意思表示をした意欲作とも言える。(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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