■ドン・ペリニオンという修道士が調合方法を確立した


 
 シャンパーニュも、シャルドネ100%のような単一のワインで製造することもある。しかし、多くの場合は異なる複数のワインをブレンドして造るのがシャンパーニュの特徴だ。
 
 これをアッサンブラージュ(assemblage, 調合)という。その方法論を確立したのはドン・ペリニヨンという修道士だ。そう、あの「ドンペリ」は修道士の名前なのだ。日本ではキャバクラやクラブでポンポン開けられるイメージがあって、なんか可哀想だけど、本当はちびちびと大事に飲むべきとてもおいしいシャンパーニュだ(高いし)。
 
 スパークリングワインは、昔はクープグラスという平たいグラスで飲んでいた。一説によるとマリー・アントワネットのバストをかたどったものだとか。右のバストなのか左なのかは知らないけど。もっとも、人間の乳房は解剖学的に「円形」ではないので、この説は眉唾ではないかと医者の私は思っている。しかし、ワイングラス以外にもマリー・アントワネットのバストをモデルにした陶器があるそうで、ぼくの意見が間違いなのかもしれない。それにしても、皆さんバスト大好きですね。

 ハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマンが主演の名作映画「カサブランカ」では二人が幸せそうにクープグラスでシャンパーニュを飲んでいる。ドイツ軍が攻めてくる前の幸せなパリのことだ。クープグラスをかかげ、「君の瞳に乾杯(Here’s looking at you, kid)」とボガートが言う。見つめ合うボガートとバーグマン。美男美女で、とても絵になる。
 
 というわけで、昔はパーティーでシャンパンといえばクープグラスが定番だった。しかし、現在ではフルート型と呼ばれる細長いグラスでスパークリングワインをいただくことがほとんどだ。こちらのほうが、泡の立ち上がりを観察しやすい。泡が細かくまっすぐに上がっていくスパークリングワインが質が高いといわれる。大きな泡が出て、すぐに泡が出なくなってしまうものは質がよくない。最近、クープグラスはほとんど見なくなった。
 
 ちなみに、シャンパーニュ(シャンパン)で乾杯、のときはグラスをカチン、と合わせてはいけない。ちょっと持ち上げるだけ。うっかりグラスを割ったら大変だ(高いし)。

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岩田健太郎

岩田健太郎

岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著にもやしもんと感染症屋の気になる菌辞典など

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