ただ、鉄道事故遅延の補償が対象外だったり、監督義務者が別居の親族だと補償されなかったり、内容は会社によって異なる。事前によく調べて加入したい。

 単独で入れる個賠として、リボン少額短期保険が17年8月に「リボン認知症保険」を発売した。認知症保険というと、治療費への備えのイメージが強いが、この保険は認知症の人が起こした損害への備え。同社の18年10月の調査だと、回答者の9割はこうした商品の存在を知らないと答えるなど、まだよく知られていない分野だ。

 保険料は年1万9800円(補償額500万円)とやや割高だが、認知症の人が起こした事故や損害をカバーする日本初の商品。駐車中の車を傷つける(被害額20万円前後)、下の階への漏水(同200万円前後)など、様々な被害が起こりうるという。

 認知症の人が起こす事故でも、個賠でカバーされないケースがある。自動車運転中の事故だ。高速道路の逆走やブレーキとアクセルの踏み間違いなど、高齢者の事故が後を絶たない。

 認知症の人が事故を起こした場合、運転手の責任を問えなくても、事故の被害者は自賠責保険で一定額まで救済される。ただ、任意保険の対人賠償や対物賠償は、運転者本人の責任能力がない場合に問題となる。

 大手損保は別居家族なども補償対象にできるように、被保険者の範囲を広げる改定を進めている。それでも、身寄りのない高齢者が起こした事故で本人の賠償責任を問えない場合、先のケースと同様に「被害者がいるが加害者不在」ということになりかねない。

 三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保は19年1月から、こうした場合でも被害者に保険金を支払えるようにした。保険業界初の「心身喪失等による事故の被害者救済費用特約」(無料)だ。両社の自動車保険の契約は約2千万台。ほかの損保も同様の取り組みを始めると、被害者救済の枠組みがより広がる。

 厚生労働省によると、認知症有病者は15年時点で65歳以上の約7人に1人、約525万人。25年には約5人に1人、約700万人に達する見通しだ。

 政府は「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」を15年に定めている。認知症への理解を広げる方向性などが打ち出された一方で、政府として「セーフティーネットの創設はしない」ことも示された。

 となれば、認知症の人の賠償事故は自治体や民間が重要な役割を握る。神戸モデルの意義は非常に大きい。(及川知晃)

AERA 2019年2月1日号