「ずっとコスメの現場にいられること」「定年がないこと」「給料は前職からのスライド」。中でも、定年を自分で決められるという条件は、外せなかった。

「子どもたちも成長していたし、妻からも、『好きなように』と言われました」

 現在、「ハルメク」では、コスメだけでなく、通販全般を担当。希望どおり、“現場”にずっといる。

「この年なので、経験や家族への思いも重ねて上司・部下の気持ちがよくわかります。仕事をする意義や目的も明確。さらに競争する気持ちもありません。仕事を単純に楽しんでいます」

 転職に不安はなかった。

「57歳だからといって、引け目を感じることもなかった。もし、その年齢が67歳だったら?……そのときになってみないとわかりませんが、でもやっぱり、自分歴の延長線で楽しいことを探していたと思います」

 自分がやりたいことがあり、それができる環境ではなかったので、できるところを探して行っただけ、と、金山さんはさらりと言う。

「年齢は個性です。気持ちが大事だと思っています」

「いやぁすっかり、しぼんでいますよ。とくにここ3年ぐらい」

 こう話す村田昇一さん(仮名・74歳)は、20年前に、長く勤務していた会社の早期退職制度を利用し、54歳で華々しい職場を去った。

 その後は、失業保険を受け取りながらのんびり過ごしたが、知り合いの紹介で再就職。しかし数年で部下の責任をとる形で役職を降り、窓際族で60歳まで働き、定年退職した。

 退職を機に、自宅から5キロほど離れた場所に40平方メートルほどの菜園を借りて、家庭菜園を始めた。趣味のゴルフや水泳をしながら、複数の企業との業務委託契約で、緩く働く生活をしていたが、「70歳のときに妻ががんになりました。ものすごく焦りました」。

 妻の闘病をきっかけに、家庭菜園も業務委託契約も終了させ、完全な無職に。自転車も転倒事故を起こし、妻からの助言でやめた。体力は落ち、視力も衰えた。

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