たとえどんなに自分がその相手を気に入っていたとしても、自分の思いと相手の思いが完全に一致するなどということはあり得ない。仮に相手が去っていったとしても相手を責めてはいけない。
「『仕方ないねー』と言える人でなければ。その余裕のない人が参入するとトラブルになりかねないのです」
年齢を重ねれば重ねるほど、求められるのは「自己客観性」とバランスのいい「コミュニケーション能力」のようだ。また老人ホームにおいて恋愛トラブルを避けるためには「人への思いやりを忘れないことも大事です」とシニアライフ・コンサルタントの武谷美奈子さん。
「女性のほうが長生きですから、どこのホームも女性の入居者が多いと思います」
そんな中に、ちょっと社交的でやさしい男性がいれば、そこに女性が一極集中してしまうこともある。要は「ラブ・トライアングル(三角関係)」が発生して、奪い合いになる場合も十分考えられるのだ。だが「居づらい」という理由から別のホームに移るのは、
「入居金が戻ってこない場合もありますから、現実的には難しいことです」
では、シニアがラブ・トライアングルを避けるためにはどうしたらよいのか。
「大前提として、誰かひとりでも傷つくような行動はとらないことです。ホーム内で仲がいいと思しきカップルの間に割って入ったりしないことも大切ですし、そんなに気持ちが傾いていない方にアプローチされたとしても、心のスキは絶対に見せないことが大切です。思わせぶりな態度というのは誤解のもとですし、あとで激しく人の心を傷つけてしまうものですから」
たとえホーム内で恋が始まったとしても、当事者同士だけで盛り上がり、仲良くするのはタブーだ。
「ホームは共同生活の場ですから、一緒に入居している方々とまんべんなく仲良くおつきあいすることです。自分たちさえよければという振る舞い方をせずに、周囲の皆から祝福されるようなおつきあいができるといいですね」
人は年齢と共に童心に帰るというが、年齢と共に思い出さなければいけないことも結局は、「子供のときにしつけられたこと」ではないだろうか。
わがままばかり言わない。人の心を傷つけるようなことはしない。取材を通して見えてきたのは、そんなシンプルな教訓だ。忘れがちな教えほど人生には効果を発揮する。それは何も恋に限ったことではないのだが。(赤根千鶴子)
※週刊朝日 2018年11月23日号より抜粋