細川貂々(ほそかわ・てんてん)/1969年、埼玉県生まれ。セツ・モードセミナー卒業。漫画家、イラストレーター。2011年から関西在住。著書に『ツレがうつになりまして。』、『ツレパパ』シリーズ、『日帰り旅行は電車に乗って 関西編』、『お多福来い来い てんてんの落語案内』など(撮影/加藤夏子)
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細川貂々(ほそかわ・てんてん)/1969年、埼玉県生まれ。セツ・モードセミナー卒業。漫画家、イラストレーター。2011年から関西在住。著書に『ツレがうつになりまして。』、『ツレパパ』シリーズ、『日帰り旅行は電車に乗って 関西編』、『お多福来い来い てんてんの落語案内』など(撮影/加藤夏子)

 漫画家の細川貂々さんが、落語をテーマにしたコミックエッセー『お多福来い来い てんてんの落語案内』(小学館、1200円)を出版した。「芝浜」「初天神」「七度狐」など22の演目を、自分や家族の話と重ね合わせて描いている。

「僧侶の釈徹宗先生が主催する落語会に行って、初めて落語を面白いと思いました。聴いている間に、頭の中に映画のような映像が浮かんできて、それがとても心地よかったんです」

 それから落語を聴くようになった。笑い、涙もあれば、理不尽な話に「何だ、こりゃ?」と怒り心頭に発することもある。落語初心者ならではの感想を、誰に臆することなく率直に綴っている。

 貂々さんには『ツレがうつになりまして。』(2006年)というベストセラーがある。今は専業主夫をしている夫のツレさんが好きな「唐茄子屋政談」も取り上げた。道楽が過ぎて勘当された若旦那が、叔父に拾われて唐茄子屋になり、貧しい母子の命を救うという人情噺だ。

 ツレさんはかつて音楽の仕事がしたくて会社を辞めたものの、収入がほとんどなく、これではいけないと宅配の荷物仕分けの仕事をした経験がある。それで若旦那と自分を重ねていたのだ。この本ではツレさんがコラムの執筆者としても、ときどき顔を出す。

 やはり貂々さんの作品によく登場する小学生の息子のちーと君は、地元の「こども落語教室」に送り込まれた。貂々さんが落語を勉強したかったからだ。

「保護者として後ろの席に座って、講師の落語家さんの話をメモしていました。いやいや参加した息子は落語が好きになって、今年は発表会で2席を演じました」

 今も毎日、家で練習しているそうだ。

 7年前、宝塚歌劇団が好きなあまり家族で関西に引っ越したので、聴きに行くのは上方落語が中心。大阪の寄席、天満天神繁昌亭の楽屋のルポも面白い。

 貂々さんは子どものころから何でも否定的に考える癖があり、自分をダメ人間と思いこんできた。しかし、この1年、精神科医との出会いもあって、「ひねくれて世の中を見るメガネがはずれて、生きるのがめちゃめちゃ楽になった」という。そこには落語も一役買っていた。

「落語の世界では、はみ出している人、生きづらい人たちが、ちゃんと話の主人公になっている。自分もここなら主役になれるのかも、と思うと想像が広がります。笑えないオチもあるけど、最終的に笑い飛ばしちゃえ、という感じが好き。励まされています」

 もう一つの元気の素は、やはり宝塚歌劇団だ。毎週のように公演に通い、「宝塚は私の美容液」と豪語する。

「宝塚も落語もそうですが、生の舞台が好きなんです。今回は描いていて本当に楽しかった。まだまだ落語のネタはあります。私は日常生活から話を作るのが好きなので、現実にあったことと組み合わせて、いろいろな物語を作ってみたい」

 初心者にも落語好きにも新鮮な一冊だ。(仲宇佐ゆり)

週刊朝日  2018年10月5日号