青色発光ダイオード(LED)の開発者である中村修二博士も、LEDが実用化まで進んでいるにもかかわらず、特許裁判が終了するまでノーベル物理学賞を受賞することができませんでした。ノーベル財団という組織は、もしかしたら、社会的な情勢も踏まえてノーベル賞受賞者を決定しているのかもしれません。

 このオプジーボが、いかに画期的ながん治療薬かをご説明しましょう。

 がんに対する免疫療法はこれまで多くの試みが行われてきました。残念ながらその多くが効果を実証できず世の中から消えていきました。PD-1分子を標的とした「オプジーボ」や「キイトルーダ」は、質の高い数々の臨床試験で既存の治療薬の効果を上回りました。その結果、日本では現在、非小細胞肺がんや腎細胞がんなど、7種類のがんで保険適用となっています。

 人の血液の中には白血球という細胞集団が存在します。この白血球は、細菌やウイルス、がんなどを攻撃し体を防御する、免疫としての機能を有しています。白血球の中にもさまざまな集団が存在し、そのうちのリンパ球の一部ががん免疫に関与しています。なかでも「キラーT細胞」が、がん細胞を直接攻撃するがん免疫に大事な細胞です。キラーT細胞ががん細胞を完璧に処理できれば、がんは消滅します。しかし、がん細胞は体の免疫から逃げるシステムをいくつも持っています。そのうちの一つが本庶博士の発見したPD-1分子です。

 免疫システムから自分たちを守りたいがん細胞は、PD-1分子とペアとなるPD-L1分子を発現します。このPD-L1分子がPD-1と結合するとキラーT細胞に負のシグナルが入ります。つまり、免疫のブレーキをかけることになるのです。ブレーキがかかったキラーT細胞はがん細胞を攻撃することができず、がん細胞は安心してすくすく育つことができます。ここで「オプジーボ」は、がん細胞がブレーキをかけるのをストップします。PD-1とPD-L1の結合を阻害することによって、再びがん細胞を攻撃できるキラーT細胞に復活させるのです。

 皮膚がんの一種、メラノーマ(ほくろのがんとも呼ばれます)は、オプジーボの登場により治療法が大きく変化した代表的な悪性腫瘍です。2014年、がんの中で最初にオプジーボが保険適用になったのが、メラノーマです。抗がん剤も効かない、放射線治療も効かない、がんの中でも治療が難しく怖いのがメラノーマ。それまでステージIVの5年生存率は10%程度でした。

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「医者がさじを投げた」