「C型肝炎やB型肝炎が見つかると、定期的に検診を受け、がんになっていないかを確認します。このため比較的早期にがんが見つかっていたのですが、脂肪肝は本人も気づかないままで検診を受けることもなく、がんが進行した状態で見つかる傾向があります」

 脂肪肝には大量の飲酒が原因となるアルコール性脂肪肝と、明らかな飲酒歴がない(アルコール量1日20グラム以下)のに発症する非アルコール性脂肪肝がある。非アルコール性の主な原因は肥満で、食べすぎや運動不足などにより、過剰な中性脂肪が肝細胞に沈着して発症する。糖尿病、脂質異常症、高血圧、メタボリックシンドロームを合併している頻度が高い。

 脂肪肝の人も、肝炎ウイルスに感染している人のように、定期的に検診を受ければ、肝がんを早期に発見できるはずだ。しかし成人全体の20~30%に脂肪肝があり、肝がんを発症する確率は肝炎ウイルスの場合と比べると圧倒的に低い。つまり脂肪肝の人すべてが検診を受ける必要はない。

「脂肪肝のある人のうち、どのような人が定期的に超音波検査を受ければ肝がんの早期発見に結びつけられるのかは、まだ研究段階です」(泉医師)

 しかし脂肪肝が進行し、脂肪がたまった肝細胞が炎症を起こす「NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)」になると、肝硬変や肝がんになるリスクが高くなる。非アルコール性脂肪肝のうち、NASHになるのは10~20%程度だ。そのうち5~25%が5~10年で肝硬変に進行し、肝硬変になると11・3%が5年以内にがんを発症するとされている(『NASH・NAFLDの診療ガイド2010』から)。このため、NASHと診断されたら、年に2、3回は画像診断を含む経過観察をすることが推奨されている。

■肝機能がよければ手術できることも

 NASHが疑われるのは高齢者、高度の肥満、2型糖尿病、AST/ALT比が高い、血小板の数値が低いといった条件に当てはまる場合だ。確定診断には肝臓の組織を採取する肝生検が必要となる。
 非アルコール性脂肪肝やNASHの治療は食事療法や運動療法など生活習慣の改善により、肥満を解消することだ。現在のところ有効な治療薬はなく、開発が進められている。

 肝がんの背景が変化してきたことは、治療の選択にも影響を与えている。肝がんの場合、どの治療を選択するかは、進行度と肝機能の状態によって決まる。肝機能が比較的保たれていて、腫瘍の数が3個以内であれば、手術でがんのある部分を切除できる。さらにがんの大きさが3センチ以内であればラジオ波焼灼術という選択肢もある。腫瘍の中に電極針を挿入し、電流を流してがんを焼く方法だ。

 肝がんは腫瘍を切除しても1年で2割は再発する。おなかを大きく開ける手術に比べて負担が少ないラジオ波は、くり返し治療ができるのがメリットだ。虎の門病院肝臓内科の池田健次医師はこう話す。

「C型肝炎、B型肝炎からの肝がんの場合、早期に見つかりやすく、ラジオ波焼灼術の条件に当てはまります。一方、脂肪肝から肝がんになった場合、3センチ以上で見つかることが多く、ラジオ波はできません。ただし、肝機能は比較的保たれている傾向があるので、進行していても手術ができるケースもあります」

 手術もラジオ波もできない場合、肝動脈塞栓術や近年進歩している薬物療法もある。

「肝がんの治療は選択肢が多く、がんだけではなく肝炎や肝硬変などの治療もしなければなりません。肝臓を総合的に診てくれる病院を選ぶといいでしょう」(泉医師)

◯武蔵野赤十字病院院長
泉 並木医師

◯虎の門病院肝臓内科
池田健次医師

(文/中寺暁子)

※週刊朝日9月7日号