5年生存率のデータを見ると、早期のI期で見つかった人の生存率はほぼ100%。II期でも95%以上だ。通常のがんは、治療から2、3年で再発することが多いため、5年生存率はがんが治ったかどうかの目安となる。

 しかし、乳がんはほかの臓器のがんに比べて増殖のスピードが遅く、治療から5年以上経過して再発することが少なくない。そこで乳がんの場合は10年生存率を参考にするのが一般的だ。それでも早期であれば90%を超え、全症例では約80%だ。

 一方、ステージIIIで見つかった人の10年生存率は約50%だ。がん研有明病院の岩瀬拓士医師はこう話す。

「治らない人もいるという事実を知ることは必要なことだと思います。それを知ることで、たとえ治らなくてもどうやって充実した人生を送るか、本人も周りも考えられるのだと思います」

 大規模な10年生存率のデータは2016年に発表されたばかりなので比較できないが、5年生存率を見ると、乳がんの生存率は20年以上前と比べると上昇している。特に転移がない早期ではなく、見つかった段階でリンパ節転移があった人(領域)や離れた臓器に転移があった人(遠隔)の生存率が伸びている。手術だけではなく、術後薬物療法などが適切に実施されるようになったほか、分子標的薬など新しい薬が登場し、がんの性質に合わせた個別治療が確立されたことなど、治療の進歩によるところが大きい。

 5年生存率、10年生存率で生存している人の中には、再発している人もいる。

「現状では再発すると、基本的には治りません。けれども乳がんは再発してもすぐに亡くなるわけではなく、がんと共存しながら生活をしている人もたくさんいるのです」(岩瀬医師)

(ライター・中寺暁子)

週刊朝日MOOK「乳がんと診断されました」より