甲子園では前評判は高くなくとも、活躍を見せて旋風を巻き起こす学校が現れることがある。今大会の「旋風」の気配を漂わせているのが、下関国際(山口)である。1回戦の花巻東(岩手)戦、2回戦の優勝候補の一角、創志学園(岡山)戦のいずれも9回に同点に追いつき逆転勝利を挙げた。坂原秀尚監督は「試合ごとに強くなり、本来の力以上のものが出せている」と手応えを感じている。大会13日第3試合で木更津総合(東千葉)とぶつかる。

 今回の優勝候補は大阪桐蔭(北大阪)と言われる。その評価は今も減じることはないだろう。ではダークホースはどこか。近江(滋賀)を挙げたい。近江は1回戦の智弁和歌山(和歌山)戦で4人の投手リレーを見せたように、持ち味が違う複数の投手がいるのは強みだが、私が注目するのは2年生捕手の有馬諒だ。

 2回戦の前橋育英(群馬)戦では、1年生野手の失策でピンチを招くと、マウンドの2年生投手の元に向かい、「1年のミスをカバーするのが2年の役目。ここを乗り越えたら人間的に成長するぞ」と激励して抑えた。通常、捕手が投手のところに向かうと「思い切って腕を振れ」など、技術論や根性論になるものだが、「人間的成長」を持ち出すのが有馬の妙。近江は投手を代えても有馬は代えない。「不動の捕手」である。

 さて、いろいろ勝手なことを申し上げたが、これからまだ山あり谷ありなのが3回戦である。100回目の夏がどんなフィナーレを迎えるのか、球場でかたずをのんで待ちたい。(神田憲行)

※週刊朝日オリジナル限定記事

■神田憲行(かんだ・のりゆき)フリーライター。1963年大阪生まれ。夏の甲子園は75回大会(1993年)から取材。今大会で23年連続24回目の“出場”。今夏、共著の「ドキュメント 横浜vs.PL学園」(朝日文庫)が10年ぶりの増刷が決まり、「松坂世代に足を向けて寝られない」