老人の社会的な孤立も万引きに影響が……(写真はイメージです) (c)朝日新聞社
老人の社会的な孤立も万引きに影響が……(写真はイメージです) (c)朝日新聞社
近年の万引き検挙人員に占める高齢者の割合(警察庁の統計資料から作成/週刊朝日 2018年8月3日号より)
近年の万引き検挙人員に占める高齢者の割合(警察庁の統計資料から作成/週刊朝日 2018年8月3日号より)
近年の万引きの認知件数・検挙件数・検挙人員の推移(警察庁の統計資料から作成/週刊朝日 2018年8月3日号より)
近年の万引きの認知件数・検挙件数・検挙人員の推移(警察庁の統計資料から作成/週刊朝日 2018年8月3日号より)

 万引きはかつて少年に顕著な犯罪とされてきたが、近年は65歳以上の高齢者による万引きが深刻化しているという。

【グラフ】近年の万引き検挙人員に占める高齢者の割合はこんなに…

 東京都新宿区のコンビニ店長は以前、70歳代の女性が万引きするのを目撃した。商品を手に取ると悪びれもせずそのまま外へ出ていこうとする。声をかけて事務所へ連れていき、警察に通報した。

「近所にお住まいのおばあさんでした。万引きしたのは、数百円程度のお菓子です。こちらの話がきちんと伝わっている手ごたえがなく、認知症だったようです。あまりに平然としていて、罪の意識は希薄でした。けっきょく警察のすすめもあって商品は返してもらい、被害届は出しませんでした。我々も通報はしたものの、一円の稼ぎにもならないのに事情聴取や被害届の提出に何時間も取られるのは嫌でしたから……」(コンビニ店長)

 現役の万引きGメン(保安員)としてこれまでに5千人以上の万引き犯を捕捉し、映画「万引き家族」の取材にも応じた伊東ゆう氏(ジーワンセキュリティサービス)は、まさにリアル「万引き家族」と遭遇した経験がある。

 あるドラッグストアで老夫婦と20代の娘2人を捕まえた。

 老夫婦は見張りをしながら娘たちに盗む商品を指示していた。老夫婦は、伊東氏に声をかけられると自分たちだけで一目散に逃走。被害は食品や化粧品、医薬品を中心に72点で、被害総額は13万円にのぼった。

 娘2人を捕まえて家族4人を引き合わせてみると、娘2人は「両親に頼まれて仕方なくやった」、老夫婦は「娘たちが勝手にやった」と互いに罪をなすりつけ合い始め、けっきょく防犯カメラの映像が決め手となって4人全員逮捕。この一家は日常的に万引きを繰り返していたという。

 罪悪感がなく何度も万引きを繰り返してしまうケースもある。昨年末にスーパーから鏡を万引きした89歳の女性だ。

 わざわざ地元から3駅離れたスーパーで犯行に及ぶ周到ぶりで、警察が調べると8犯もの前科があった。「なんで私がこんな目に」と言いながら彼女の細い手首に手錠がかけられる様子に、捕まえた伊東氏は、何ともいえない思いがしたという。

「万引きをした高齢者を捕まえるたび、自分が介護職員をしているような気持ちになります。通報して警察が来るまでのあいだ、身の上話を聞いたり、『怖いから手を握っていて』と言われることもあります。中には、このあと自分がどうなるのかという不安から、失禁してしまう人もいます。

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