■病院選びは、自宅からの距離を重視

 私が過去2年間、体力と気力を充実させ元気ながん患者として生きてこられたのは、基本的に自宅をベースにがん治療・生活を送れたからだと思っている。抗がん剤治療しかほかに選択肢がないと聞いた時点で、従来どおり東京医科歯科大学病院にお世話になることにした。何より重要視したのは、病院がわが家から近く徒歩と地下鉄を利用して30~40分ぐらいで通院できるということであった。このことから通院で抗がん剤治療を受けられることになり、がん生活の基盤を自宅に置けるようになった。このメリットは計り知れない。以下で稿を改め述べるように、さまざまな活動が可能になっている。この活動の実践こそが、私の活力の源である。

 よく抗がん剤治療中に入退院を繰り返す患者の方もいる。その一つの理由が、病院が遠くて毎回の投薬を通院では無理、ということであろう。そうなると、病院選びにおいては「通院が可能か否か」も判断の重要な基準にすべきである。もちろん、体調が悪くて抗がん剤投与を入院して行わねばならない方もいる。入院すると病院の狭い病室に閉じこもり、一日中ベッドと縁の切れない生活になる。当然のことながら、筋肉が衰えて外との接触もないことから、体力や気力が萎えてくるだろう。

 2年間の闘病中に、ほぼ同じ時期かそれ以降にすい臓がんに罹患した5人の同病者を身近で見聞きしてきた。ところがそのうち、3人の方が1年以内に亡くなられた。このように知り合いの同病者の方々が短い期間の闘病で旅立たれたのも、入退院と縁が切れなかったことに原因の一つがあると思う。

 体力がなくなり、白血球の減少から抗がん剤治療が続けられなかったため、入院加療は必要不可欠であったようだ。しかしこの入退院の繰り返しが患者本人の基礎的な体力と気力を奪い、生存の期間を短くしてしまったと言えよう。ここが通院による治療をこれまで続けている私と、入退院を繰り返すがん患者との決定的な違いであり、かかる状態になってないことに私は心より感謝している。
 
◯石弘光(いし・ひろみつ)
1937年東京に生まれ。一橋大学経済学部卒業。同大学院を経てその後、一橋大学及び放送大学の学長を務める。元政府税制会会長。現在、一橋大学名誉教授。専門は財政学、経済学博士。専門書以外として、『癌を追って』(中公新書ラクレ)、『末期がんでも元気に生きる』(ブックマン社)など

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石弘光

石弘光

石弘光(いし・ひろみつ)1937年東京に生まれ。一橋大学経済学部卒業。同大学院を経てその後、一橋大学及び放送大学の学長を務める。元政府税制会会長。現在、一橋大学名誉教授。専門は財政学、経済学博士。専門書以外として、『癌を追って』(中公新書ラクレ)、『末期がんでも元気に生きる』(ブックマン社)など

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