では、平穏死とは一言で言ったらなんなのか。それは「枯れる」ということ。枯れていく最期なんですよ。

 人生とは水分含量の観点からいうと、水分がどんどん減っていくことです。生まれた時、赤ちゃんの水分は8割。成人は6割です。高齢者になると5割にまで減っていく。そして、平穏死寸前は4割くらいになる。

 枯れてしぼんで水分含量が少なくなってドライになる。医学的には脱水という言葉です。脱水と言うと悪い言葉のように思う人も多いと思います。急に暑くなって熱中症になって脱水になる、これはよくない。だけど、病気でがんの末期、認知症でも、脱水があったら実は平穏死。平穏死の条件は脱水なんですよね。脱水があると、苦痛が少ない。そして、かつ長生きします。

 良かれと思って、最期まで点滴をすると、ある時点から命を縮めてしまう。それどころか、苦しみ出す。

 平穏死の反対は、延命死です。最期に良かれと思って、点滴をたくさんすると患者さんを溺れさせてしまう。もう終末期なのに、高カロリー栄養の点滴をやっている人がいる。その結果、どうなるか。みんな溺れ死にです。

 私は年間100人ちょっとの人を看取りますけど、みんな平穏死ですね。みんな枯れてます。がんの場合でも痛みが少ない。咳やたんで悩まない。呼吸困難がない、かつ、長生きできる、いいことばっかりです。

 これはがんでも、認知症でも、心不全でもみんないっしょ。平穏死の概念は病気の種類を問いません。

 心臓も何十年も動いていたら弱ってきます。水分含量が少ないからゆっくり動いています。そこにドバーっと点滴をしたら、心臓はパンクしてしまいます。たったそれだけのことなんです。

 病院のご遺体はみんな重たい。みんなむくんでます。パンパン。家のご遺体はみんな軽い。むくんでません。きれいなお顔ですね。

 平穏死は、終末期以降は過剰な治療は控えて、緩和医療はしっかり受けて、あとにある自然な最期を迎えるということです。

◯長尾和宏/ながお・かずひろ
医師。医療法人社団裕和会理事長、長尾クリニック(兵庫県)院長、日本尊厳死協会副理事長。著書に『「平穏死」10の条件』『痛くない死に方』『薬のやめどき』(いずれもブックマン社)など、多数。

(構成/杉村 健)