「今までアミロイドは、単に神経細胞を壊す“悪者”だと考えられていました。が、実は、炎症や毒物などの脅威から脳が神経を守る“防御反応”だとわかったのです。アミロイドをどうやって取り除くかではなく、アミロイドを発生させている原因そのものを取り除かなければ、認知症の根本的な治療になりません」

 ブレデセン医師らは、アミロイドの前駆体(APP)からなぜアミロイドがつくられるのかを解明した。その原因は複数あるが、【1】炎症【2】栄養不足【3】毒物の三つに大別される。

 カビ毒や水銀などの毒物にさらされると、脳は防御反応によりアミロイドをつくり、その毒物と結合させて神経細胞を守ろうとする。しかしその防御反応でアミロイドが蓄積すると、神経細胞が破壊されてしまう。

 認知症予防には、脳内にアミロイドを発生させないこと。そのためには、原因となる毒物の発生源を取り除き、すでに体内にある毒物を排出させる必要がある。

 ブレデセン医師らのチームは、生活習慣や環境を変える総合的な治療プログラム(リコード法)を実施している。その治療をおこなっても最後まで原因がわからなかったのが、毒物が原因の患者だった。この患者の自宅の地下室には大量の黒カビが生え、マグロなどからの水銀の摂取が原因となっていた事例も示されている。

「こうした患者の場合、毒物を取り除くことで回復しました。毒物が原因のアルツハイマー病は、40代後半から60代前半の若い世代の女性に多いことが特徴です。症状は記憶の喪失よりも、計算や整理、会話などへの支障が目立ちます。毒物性タイプの患者は、明らかになっていないだけで潜在的に存在すると考えられます」(ブレデセン医師)

 同医師の治療プログラムを国内でいち早く取り入れたブレインケアクリニック院長の今野裕之医師は、こう話す。

「カビや重金属などの毒性をもつ物質が認知症に影響するという視点は研究レベルで指摘されてはいましたが、治療の一環として取り入れた点が新しいといえます。ただ日本では、体内の毒物を測る検査体制が不十分なため、生活環境などの状況で判断するくらいしかできません」

 湿度が高く木製の家が多い日本では、カビは身近な存在だ。しかし、あらゆるカビがリスクになるわけではない。黒カビ、青カビなどのうち、その一部からカビ毒は発生する。

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