大腸がんデータ(週刊朝日 2018年5月18日号より)
大腸がんデータ(週刊朝日 2018年5月18日号より)
■TaTME(経肛門的全直腸間膜切除術)(週刊朝日 2018年5月18日号より)
■TaTME(経肛門的全直腸間膜切除術)(週刊朝日 2018年5月18日号より)

 下部直腸がんが見つかり、手術を受ける人の一番の心配は、人工肛門になるのか、ならないのかではないだろうか。現在、肛門機能の温存を可能にする手術はどこまで進化しているのか、その現状を探った。

【図解】おなか側とお尻側、両方から腹腔鏡を入れて行う注目の手術「TaTME」とは?

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 大腸がんのなかで、治療の難度が高いのが直腸がんに対する手術だ。

 直腸は骨盤内の狭い空間にあり、ほかにも複数の臓器や血管、神経が密集しているため、それらを避けながらがんを取り切るのには高い技術を必要とする。

 なかでも肛門に近い下部直腸がんの場合は、がんを取り切ること、神経を温存することに加えて、肛門を温存できるかどうかという重要な課題がある。

 ガイドラインに記載されている標準治療では、がんの再発を防ぐために、直腸とともに肛門を切除し、左下腹部に永久人工肛門を作ることになっている。直腸がんと診断された患者の約30%は永久人工肛門になる。

 しかし近年では、先進的な取り組みとして、がんが肛門から2センチ以上離れている場合には肛門を温存する手術がおこなわれるようになった。ISR(括約筋間直腸切除術)という手術だ。

 肛門を締める肛門括約筋のうち、自分の意思ではなく自律神経の働きで締まる内肛門括約筋の一部もしくは全部を切除し、自分の意思で締めることのできる外肛門括約筋を残す手術だ。

 ISRは難度が高いため、手術手技に優れた医師に執刀してもらうべきことは言うまでもない。加えて、ISRを適応すべきかどうかも慎重に診断してもらうべきと話すのは、国立がん研究センター東病院大腸外科長の伊藤雅昭医師だ。同科は日本で最初にISRを実施した。伊藤医師は通算500例以上のISRをおこなった実績を持つ。

「形だけ肛門を残しても、機能が残らないと意味がありません。排尿機能、性機能も含めて機能を残せるかどうかはおこなった手術の質のみならず、個々の条件によって大きく違ってきます。ISRありきではありません」(伊藤医師)

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