「グランパ!」

 吉本の芸人でなくとも、「あんたがグランパかい!」と突っ込みを入れたくなる一瞬であった。

 じゃあ、そういうお前は昭和君に英語を仕込もうとか、算数を教え込もうとかしていないのかと問われたら、ご多分に漏れず、コソコソやっているんである。

「オレンジジュースって、本当はオーレンジューだからね。オーレンジュー。ほれ、言ってみ?」

 などと、事あるごとに昭和君に無理強いをしている。

 先日、大センセイ一家行きつけの「ブラッスリーほっぺ」という洋食屋さんに行ったときのことである。

 この店のシェフの大森さんは、見かけは怖いけど作る料理はとてもまろやかで、特にビーフシチューがおいしい。一方、ホールを切り盛りするマネジャーのさゆりさんは、見ためも中身も優しい人で、いつも昭和君によくしてくれる。

 この日も名物のビーフシチューを注文すると、さゆりさんが声をかけてくれた。

「昭和君、ジュースは二種類あるんだけど、オレンジジュースとりんごジュース、どっちがいい?」

 昭和君はどちらも大好きだ。彼の顔に苦悶の表情が浮かんだ。

「オ、オ、オーレン、オーレンゴジュース!」

 英才教育って、やっぱりちょっと滑稽だな。

週刊朝日 2018年5月4-11日合併号

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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