漢字や日本語ならではのユニークな表現の理念を、多くの企業が持っている。一方で、日本企業の国際化が進み、海外社員に経営理念を説明したり、共有したりする難しさも課題だ。

 1899年創業のロート製薬は、2016年に新たな企業メッセージをつくった。「NEVER SAY NEVER(不可能は絶対にない)」。“ど根性”を訴える意味ではなく、常識の枠を超えて挑戦し、困難に当たる覚悟を持つ意味という。同社はこの言葉を軸にして、国内外で取り組んでいる事業を紹介している。

 立派な理念を持ちながら、経営が傾く老舗企業や不祥事に沈む企業も多い。

 シャープの経営信条は「二意専心」。誠意と創意にあふれる仕事こそが、人々に満足や喜びをもたらし、社会に貢献できるという意味だ。液晶技術の強みを武器に一時期は急成長したが、今は台湾の鴻海精密工業の支援のもとで、経営再建を進めている。

 不正会計に沈んだ東芝は三つの経営理念を掲げている。人を大切に、豊かな価値の創造、社会に貢献。欠陥エアバッグを製造したタカタの企業理念は「人間の生命の尊さが私たちを駆りたてる」。製品の性能を偽装した東洋ゴム工業の社是は「需要者の為に各自の職場で最善を」。製品データを改ざんした神戸製鋼所のグループ企業理念の一つは、「信頼される技術、製品、サービスを提供します」。よい理念があっても、言行不一致だと意味がない。

 建機メーカー、コマツの経営改革に取り組んだ坂根正弘・前会長は、著書『言葉力が人を動かす』にこう記している。

〈「言う」を「成す」と書いて「誠」。これは私がリーダーとして大事にしている言葉だ。リーダーは言葉でメッセージを伝えることが大事だが、うまく伝えるだけではダメで、その伝えたことを自分が実行してみせなければ意味がない。つまり有言実行だ〉

 勤務先や取引先など身近な企業の理念は、有言実行の「誠」になっているだろうか。(本誌・中川 透)

週刊朝日  2018年2月23日号