林:何泊したの?

藤:3泊して、次の日の夜中の12時に乗って日本に帰る予定だったんだけど、帰りの飛行機に乗る寸前に「飛ばない」ってことになって、しかも、その前の爆発では1週間飛ばなかったという情報があったわけ。どうしようと思って、あちこちヘルパーさんに電話して土下座するというのも変だけど、土下座するようにお願いして、やっとのことで一日一日埋めていって、2日遅れぐらいで帰れたの。それはまあ大変なことだった。

林:一人っ子だし、ご親戚はいないんですか。

藤:いるんだけど、母の面倒をみるのは、慣れたヘルパーさんしか無理だったのよ。誰かいればいいってものじゃないのね。しゃべれないし、医療処置もあるから。

林:藤真利子さんは有名作家のお嬢さんで、聖心女子大を出て、すぐに売れっ子になり、何の不自由もなく暮らしてきたというイメージがあるので、こんな壮絶な介護をされていたと知って、びっくりしました。

藤:この話をすると、「そんな苦労をしてたようには見えなかった」って言われるんだけどね。あとは、お金の心配ですよ。介護の途中できちんと計算すると、この速度でこれだけのお金がなくなっていって、母が長生きしたらまったくもたないんですよ、うちの財政は。だからといって死んでほしいとは思わないし……。

林:うちの母のときもそう。母が94歳のときに、大手企業の部長をしていた弟が介護離職したの。母のこれからの人生は「プレミアム」だから自分が介護をすると言って。でも、まさか101歳まで生きると思わないから。弟にはかわいそうなことをしました。

藤:これは介護をしている人の宿命というか、お金と生きる年月とを照らし合わせるみたいな、それがすごくイヤなのよ。残酷。私の場合は、じゃあどうしようと思って、まずいちばんは自分が切り詰める。

林:でも、女優さんだから、流行のお洋服とかも必要だし。

藤:何の興味もなくなっちゃった。着物はたくさんあるけど、私、自分で半襟もつけられないのよ。倒れるまでは母が着せてくれてたんだけど、倒れてからは着付けの先生と、着物の髪ができる人に頼んだら、なかなかお金がかかるでしょ。そんな余裕もないの。自分のものから切り詰めていくしかない。でも、そんなに切り詰められるものじゃないの。毎月出ていくお金って確実にあるのよね。

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