林:お誘いだってあるわけでしょう? 「飲みに行こう」とか「食事に行こう」とか。

藤:お世話になった方にお誘いを受けるときは、まかせても大丈夫なヘルパーさんの日。林さんと会うときも、6時とかの早い時間に会って10時半か11時にうちに着くようにして、ヘルパーさんが終電に間に合うように、みたいな形でやってきたのよ。帰り際にタクシーを拾ってくれる人もいるんだけどね、お金がかかるからいちばん近い駅で降りて電車に乗って帰ってた。たとえば六本木で乗ると四谷で降りて電車に乗ったり。

林:そうなの? 知らなかった。

藤:最近は、女優をやっていても制作費がだいぶ少なくなって、たくさん出ても「えっ?」という収入だったりするしね。

林:華やかなスタジオから帰ってきて、その落差に愕然とすることはなかったですか。よく切り替えができるなと思う。

藤:朝、母の世話をしているときに、「きょう来る帝劇のお客さん、私が朝こんなことをしているなんて誰も思わないだろうな」と思ってた。私は世間的には内緒にしてたのね。そんな私的な事情でNGを出すなんて、プロっぽくなくてイヤだなと思ったので、スタッフには「一切伏せてください」ってお願いしてたの。もちろん仲のいい林さんとか見城さんとかユーミンとかには話をしてたけど。

林:施設に入れようとは一度も思わなかったんですか。

藤:入れようとしたの、最初は。だけど重度すぎて入れなかった。最後の最後に病院にお世話になったときに療養型病院を紹介されたんだけど、今度は、うちの母の程度はいちばん軽いの。脳梗塞の後遺症で動けないし、しゃべれないし、自分では何もできないのに、いちばん軽いって。

林:そうなの?

藤:私がいないあいだ、病院に2週間あずかってもらったとき、褥瘡(じょくそう・床ずれ)にされちゃったのよ。その褥瘡の処置だけのために療養型病院が受け入れてくれるって。そして「褥瘡が治ったら出ていってください」って。「出ていくって、どこに行ったらいいんですか」と聞いたら「紹介します」って言うの。そうやってたらい回しにされていくわけ。それが嫌で、家に連れて帰ったの。

(構成/本誌・直木詩帆)

週刊朝日 2018年2月23日号