治療の中心となる保存的療法は、食事内容の改善や服薬で、便の状態(便性状)を改善して漏れにくい便にする。便漏れを訴える人のほとんどが軟便になっているからだ。いわゆるバナナ状、ソーセージ状で適度な硬さをもち、まとまる便に近づけていく。

 アルコールの飲みすぎや、強い香辛料は便をやわらかくするので控える。そのほか牛乳など、自分でおなかがゆるくなると思う物は避ける。さらに便意をもよおしたらすぐにトイレに行く、食物繊維を積極的にとるなどして、便秘にならないよう心がけることも大切だ。

 1~2カ月程度試してみてあまり改善されないようなら、便の水分調節をする薬剤「ポリカルボフィルカルシウム」と、腸の働きを抑える下痢止め薬の「ロペラミド」を服用する。

「バイオフィードバック療法」がおこなわれることもある。これは、肛門筋電計や肛門内圧計を用いて、モニターで確認しながら正しい肛門の締め方を教わり、30回を1セットとして、1日3~5セット、実践する。

「便失禁を完治させることはむずかしいのですが、頻度を減らして、なによりもまず患者さんのQOLを上げることを目標にします」(山名医師)

 治療の対象は自分で通院できる人が中心だが、寝たきりやフレイル(放置すると要介護状態に陥る可能性の高い人)の人の治療についても今回のガイドラインには記載されており、今後の重要な課題として、研究が継続されるだろう。

 千葉県在住の小森みささん(仮名・75歳)は60歳をすぎたくらいからがんこな便秘で、週に1回程度、下剤を使っていた。3年ほど前からは下剤を使わないと排便できず、下剤を飲むと便が漏れてしまう状態になり、便漏れの不安から友人と会うことも徐々に避けるようになった。思い切って主治医に相談したところ、亀田総合病院を紹介された。

 小森さんを診た同院消化器外科部長の角田明良医師は、出なくなった便のかたまりが直腸内にあり(糞便塞栓[ふんべんそくせん)、下剤を飲むとその周囲から便が漏れ出る「溢流性(いつりゅうせい)便失禁」と診断した。

「糞便塞栓があると、下剤を飲んでもかたまりは出ずに、周囲から軟便が漏れてしまいます。便が十分に出ないのでさらに下剤を飲むという悪循環に陥ってしまいます」(角田医師)

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