また、便秘の人は排便のたびにいきむので、陰部神経(いんぶしんけい)という肛門を締める機能に関係する神経が伸びてしまい、肛門の締まりが悪くなるという。

 角田医師はまず小森さんのつまった便を取り出す摘便で直腸を空にしたあと、便性状を整える指導をおこなった。小森さんはアルコールと香辛料を控え、食物繊維とヨーグルトなどを積極的に摂取し、さらにポリカルボフィルカルシウムと、ロペラミドを用いた。2カ月後には便の状態がよくなり、便秘はまだときどきあるが、以前ほどひどくはないという。便漏れは月に1回、あるかないかになり、便失禁の重症度をあらわすFISIスコアも、初診時は30だったのが5まで下がった。一般的に初診時の半分まで下がればいいといわれているが、小森さんの場合、保存的療法がきわめて有効だったことになる。

「便秘の人の溢流性便失禁はめずらしくありません。同じような症状があったら糞便塞栓を疑って、専門医を受診してください」(同)

 便失禁のなかには、直腸壁が折りたたまれて肛門に入り込み、便の通行を妨げる「直腸重積」が原因のことも多いという。原因が特定できない特発性便失禁の何割かは直腸重積によるものが含まれるのではないかと角田医師は指摘する。便失禁というと肛門括約筋の機能低下と思われがちだが、直腸重積などによる形態の異常が原因になることもある。この場合は手術で直腸重積を改善すれば、便失禁も高率に改善される。

「直腸の形態は排便造影という検査で診断します。この検査をおこなわない専門病院も多いのですが、基本的な検査に入れるべきだと考えています」(同)

 便失禁は保存的療法で効果がみられない場合でも、お尻の上部に装置を植え込んで電気刺激で機能を改善する「仙骨神経刺激療法」や、肛門括約筋の損傷が重症の場合におこなわれる「肛門括約筋修復/形成術」などの外科治療もある。

 便失禁は治らないと思い込まず、まずかかりつけ医に相談して保存的療法を受けてみよう。それでも改善されなければ排便機能を専門に診る病院を受診して、QOLの向上に努めたい。(ライター・別所 文)

週刊朝日 2017年11月17日号