豪快なロック・ナンバーの「ビッチ」で盛り上げた後は、「キャント・ユー・ヒア・ミー・ノッキング」。

 アルバム制作時はロン・ウッドでなく、ミック・テイラーが弾いていた。当時はメンバーでなかったロンが、今回のライヴやツアーでは“ミック・テイラーの演奏を継承する”と語りながら、個性をむき出しにしているのはご愛嬌。亡きボビー・キーズの跡を埋めるカール・デンソンのサックスとの掛け合いの妙、ラテン・ジャズ的展開などは見ごたえがある。

 ストーンズ作品の中では最もスローな曲で、チャーリー・ワッツもテンポをとるのが難しいと語るソウル・バラードの「アイ・ガット・ザ・ブルース」では、ミックの狂おしくソウルフルな熱唱に聞きほれる。
『スティッキー・フィンガーズ』パートの締めくくりはもちろん、「ブラウン・シュガー」。余裕たっぷり、快調に素っ飛ばしていく文句なしの歌、演奏に、大いに盛り上がる。最後の観客との掛け合いも楽しく、場に居合わせているような興奮を覚える。

 アンコールでは亡きB・B・キングに捧げた「ロック・ミー・ベイビー」、そして「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」。ボーナス・トラックとして収録されたオーティス・レディングに敬愛を込めた「アイ・キャント・ターン・ユー・ルーズ」のカヴァーも聴きものだ。

 本作は、最高のロックンロール・バンドとして君臨してきたストーンズの成熟した魅力、枯れた味わいをありのままに見せる一方で、今の時代を生きる柔軟性をも伝えている。ミックやキースをはじめ、ストーンズの圧倒的な存在感にうちのめされる。(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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