国立新美術館で現役建築家が展覧会を開くのは2人目だ。会場には安藤建築の原点、住宅の代表作を一挙公開している。安藤さんが30年以上かけて進めている香川県直島のプロジェクトの紹介は圧巻。直島の模型は大学生たちが勉強を兼ねて手伝ってくれたという。

 さらにビックリしたのが代表作「光の教会」(大阪府茨木市)を原寸大で野外展示場に再現したことだ。外光を入れて十字架を浮かび上がらせる空間が鮮やかによみがえる。

「これを実現するのに本物をつくったときよりも高いコストがかかりました。それでもつくったのは来館者に、ただ模型や写真を見てもらうだけでなく実際に空間を肌で感じてもらいたかったからです。おもしろいと感じたら、また来てみようと思うじゃないですか。本物の光の教会は十字架部分にガラスが入っていますが、今回は十字架を通して光や風を直に感じられるようガラスを入れませんでした。実物では使い手である信者の反対にあい実現しなかったのですが、本来はこうしたかったのです」

 安藤建築には他に「風の教会」「水の教会」がある。光や風や水といった自然との共生で安藤さんの目指す空間が生まれるという。

 展覧会のタイトルは「挑戦」。既成概念を打ち破り続ける安藤さんならではの言葉だ。安藤さんは76歳になる。あと20年は設計の仕事を続けるつもりだという。エネルギーの源泉は好奇心だ。こうしたらもっとおもしろがってくれるはずと夢は広がる。

「建築はいまでもおもしろいと思います。自分の魂が込められるものなら小さいものでも大きなものでもこれからもつくっていきたい。私に怖いものはありません。失敗を恐れてちゅうちょしたことはまったくありませんね。この展覧会で私の建築家としての歩みを振り返り、未来に向けてのメッセージを発信できればと考えています」(山本朋史)

週刊朝日 2017年10月13日号