
「安藤忠雄展─挑戦─」が9月27日、東京・六本木の国立新美術館で始まった。世界を舞台に斬新で力強い建築をつくり続けて半世紀。その「挑戦」の軌跡とエネルギーの源泉を安藤さんが語った。
安藤忠雄さんは忙しい人である。毎日多くの人と会って打ち合わせをし、連日のようにインタビューを受ける。もちろん、その間に図面をチェックし現場に行って指示をする。毎月のように海外にも行く。拠点である大阪から東京に行くときもほとんどが日帰り出張である。
そんな安藤さん、展覧会準備期間中の9月20日も国立新美術館に飛び込んできて、やおら真っ白な壁に建築物のスケッチを描き始めた。
「壁もこんな真っ白なままだと誰も見てくれないでしょう。でも空白にスケッチをすればなんだろうと思って見てくれますから」
ほんの5分ほどで大きなスケッチが完成した。時間がもったいないとスケッチなど仕事をしながらインタビューも受けるという。会場に少しでも描ける空間を見つけると、
「ここにもなんか描こうか。スケッチというよりいたずら書きですね。子どものころから好きだった。いたずら書きがいちばん私の気持ちが表れるから来館者は興味を持ってくださるんですよ。開幕までまだ1週間あるから、もっとスケッチを描いていきますよ」
代表的建造物の幅や空間の取り方などすべて頭に入っているそうだ。楽しそうに太めのフェルトペンでスラスラ描いていく。
「建築に興味を持ったのは中学2年のころでした。自宅を改築する大工さんが一心不乱に働く姿になにか憧れるものを感じたんです。家庭の経済的事情などもあって大学進学をあきらめて独学で建築の道を進みました。いま思えば若さゆえの無謀さもあったと思います。好奇心は旺盛で、京都や奈良の歴史的建築を見て回りました。世界の建築も見たいと思ってヨーロッパにも行きました」
元プロボクサーという異色の経歴の持ち主でもあった。若いときから一途に建築家になりたかったが、先が見えず不安いっぱいのスタートだったそうだ。