今回、韓国の脱原発の引き金となったのは、朴大統領を退陣に追い込んだ「キャンドル革命」と呼ばれる国民の大規模デモだったと話すのは、韓日反核平和連帯の事務局長を務める在日韓国人2世の崔勝久(チェスング)氏だ。

「デモを通して多くの国民が韓国の変革を望んだ。そのなかで教科書や国民の人権問題などとともに、脱原発がイシューとしてあがってきたのです。それをうまくすくい取ったのが文大統領でした」

 8割を超えると言われる文氏の支持率を背景に脱原発宣言は国民に支持されているというが、注目は原発輸出をどうするかだ。建設中の原子炉と輸出についてはまだ何も言及していない。

「巨大な原発利権を持つ財閥を敵に回して、原発輸出もやめろとは文大統領でも言いにくい。背中を押すためには、自国でやらないものを輸出するのはおかしいとする世論が出てくるかどうかです」(崔氏)

 脱原発で沸く韓国と正反対なのが日本だ。

 安倍政権のもとで原発再稼働が進み、経済産業省は今年見直すエネルギー基本計画で新増設や建て替えの必要性を明記する検討を始めた。世耕弘成経産相は「現時点では全く考えていない」と言うものの、今後、有識者会議を立ち上げて検討する方針だという。

 こうした原発の新増設は既定路線だと言うのは元経産官僚の古賀茂明氏だ。

「国が原発比率を20~22%と決めている以上、古い原発の廃炉などを考えると新増設は必須ですが、そのためにネックになるのは根強い反原発の世論。そこで経産省は再稼働を進めながら電気料金を下げ、国民に『原発が動けば電気が安くなるし、事故も起こらないみたいだな』と思わせる。あとは新増設の話を切り出すだけ。実際、高浜原発を動かした関西電力は8月から電気料金を下げます。日本はこのままでは、自然エネルギーの分野でも欧米はもちろん韓国などに後れを取るのは必至です」

 未曽有の原発事故を教訓にしたのは、当事国ではなく隣国だった。(桐島 瞬)

週刊朝日  2017年7月7日号