ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「スーパー中学生」を取り上げる。

*  *  *

 毎晩『テレビ東京』漬けという珍現象が起きた先週。言うまでもなく世界卓球とテニスの全仏オープンにかぶりつきだったわけですが、特に錦織圭が連日熱戦を繰り広げたテニスは、浮足立ちまくった実況が切なかった。あとスタンドから超個人的感想を述べるだけの滝川クリステルの謎。好きです、テレビ東京。

 そして改めて、卓球の演歌魂を実感。昨年のリオ五輪の際にも書きましたが、歯を食いしばり、耐えて、追いかける卓球は演歌です。銀メダルを獲得した大島・森薗の男子ペアのシンクロしまくったルーティン(歩くリズムや卓球台を拭く仕草など)は、ザ・ピーナッツやWinkというよりも、狩人(もしくは『金剛と榛名』)を彷彿とさせますし、優勝を決めた石川佳純ちゃんと吉村真晴くんペアの熱い抱擁も、往年のレコ大のワンシーンのようでした。

 中でも一躍アイドルとなった張本智和選手。弱冠13歳。中2ですって。中2とは思えない太ももの筋肉に驚愕していたら、周囲に変態扱いされました。未成年だろうと中学生だろうと、世界レベルのアスリートの肉体を讃えているのですから、ロリコンではないと思うのですが。ちなみに張本くんの代名詞にもなった「チョレイ!」という掛け声は、「ちょろい」から来ているのだと踏んでいます。「ちょれぇよ、こんな相手」的な。私らの世界でも、やたらと笑ってくれたり、最初からノリの良いお客さんがいると、裏で「今日の客はちょろいわ」などと言うことがありますが、表現としてあまりお上品ではない上に、相手を馬鹿にしているような節があるため、張本くんも「特に意味はない」と言うしかないのでしょう。そう思っていたら、ドイツや中国の選手も「チョレイ!」と叫んでいました。まさか「ちょろい」は世界共通語? いずれにせよ、血気盛んな中学生が、点を決めるたびに大声で「ちょれぇ! ちょろいぜ!」とツッパっている……。そんな妄想込みだと『張本萌え』もより一層楽しめます。これはれっきとした変態発言と取って頂いて結構です。

 
 張本くんの太ももだけに限らず、昨今のスーパー中学生たちの成熟ぶりは、とにかく凄まじい。3月まで中学生だったサッカーの久保建英くん。おぼこいのか老けているのか分からない、妙に達観した不思議な顔つきをしています。日本のサッカー選手というのは、爛々とした溌溂さよりも、いつも眉間に皺を寄せて、金網越しに群がる女子の視線を意識しまくっている印象がありますが、久保くんは、そんな『サッカー選手あるある』を集約したような存在に見えるのは私だけでしょうか。

 そして何といっても、将棋藤井聡太四段。こちらも花の中学3年生。現在、公式戦23連勝中だそうで。『玉(ぎょく)』を「タマ」と読むぐらいオカマ道まっしぐら、将棋には疎い私ですが、紛れもなく今最も気になる中学生です。藤井四段の黒々とした髪の『うねり』は、まさに第二次性徴の真っ只中である証し。2月に羽生三冠を破った時と比べても、明らかに髪質が大人化しています。思えば私のさらさらストレートも突如、硬くうねり出した中2の夏。この『うねり』を経て男子たちは、己の人生を極めるべく歩き始めるのです。藤井四段もこれからが本番。そして『玉』を取るのがゴールではない私の道もまた険しく長い。

週刊朝日 2017年6月23日号

著者プロフィールを見る
ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

ミッツ・マングローブの記事一覧はこちら