遺伝の影響も大きい脂質異常症に新薬が登場した (※写真はイメージ)
遺伝の影響も大きい脂質異常症に新薬が登場した (※写真はイメージ)

 脂質異常症は、年間約80万人が発症する心筋梗塞、狭心症の最大の危険因子だ。遺伝の影響も大きいこの疾患に新薬が登場した。第一選択薬のスタチンとの併用で悪玉コレステロールを約7割低下させるという。

 脂質異常症は、血液中のコレステロールや中性脂肪が異常値を示し、心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患を起こしやすくなった状態を指す。

 従来、高脂血症と呼ばれていたが、悪玉とされるLDLコレステロール(LDL-C)や中性脂肪の値が高いだけでなく、善玉のHDL-Cの値が低いことも冠動脈疾患の危険因子となることから、2007年に改称された。

 現行の診断基準では、LDL-C値が140mg/dL以上になると治療が必要となる。この値以上になると、80mg/dL未満に比べ冠動脈疾患のリスクが2.8倍に高まるという。

 では、なぜLDL-C値が高いと冠動脈疾患のリスクが高まるのだろうか。

 長年の喫煙、高血圧、糖尿病などにより血管の内膜が傷つくと、そこから血液中に多量に含まれたLDL-Cが血管壁に入り込み、やがて酸化する。これを免疫細胞のマクロファージが「異物」とみて取り込む。

 こうして血管壁内にマクロファージの残骸がたまるとこぶ(プラーク)ができ、血管の内腔を狭める。プラークが破れると、破れたところを修復するため血小板が集まって血栓ができ、ついには血管を完全にふさいでしまうことになる。

 脂質異常症の治療薬としては、コレステロールの合成を阻害するスタチン、食品中や胆汁中のコレステロールが小腸から吸収されるのを抑えるエゼミチブなどが用いられているが、昨年、「3本目の矢」としてPCSK9阻害薬が登場した。

 東京医科歯科大学病院遺伝子診療科教授の吉田雅幸医師は、「LDL-C値が高くなる原因には食生活の乱れや運動不足なども挙げられますが、実はそれ以上に遺伝的な素因が大きく関わります」と指摘する。

 LDL-Cを肝臓などの細胞に取り込むLDL受容体の遺伝子に先天的な異常(変異)があったり、LDL受容体を分解する酵素のはたらきが強かったりすると、血液中にLDL-Cが増えてしまう。

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