中京大学の卒業式では、はかま姿を見せた (c)朝日新聞社
中京大学の卒業式では、はかま姿を見せた (c)朝日新聞社

 その演技と人柄で世界中から愛された女子フィギュアの浅田真央選手(26)。4月10日には晴れやかな表情で引退会見を行なったが、これまで彼女と交流のあった人々からエールが届いた。

<母親の遺伝子受け継いだ感謝と恩返しの人>
渡辺克樹 東海テレビプロダクションディレクター

 14年間取材してきました。初めて会った時は中学1年生。今もピュアな部分があって、ひとことでいうと可愛らしい人。そして天然。面白い人です。競技になるとまるで別人。中学生のころ、僕がリンクのスタッフと談笑していたら、「ちゃんと練習見ないなら帰って」と言われました。こんな選手はなかなかいない。いつも必死だから、こちらも真剣でした。

 やると決めたらずっとやる。整氷車が出てきても、その横でまだ練習していたこともあった。その日の目標が達成できるまで帰らなかった。

 スケートと亡きお母さんと本人が一体化しているように見えます。お母さんのことを忘れないために、スケートをやっているようなところがありました。自分の中にいる「ママ」と対話しながら競技を続けてきたように思います。

 いつもけなげ。なんとか期待に応えないといけないという思いが強い。「自分のために滑ったらいいんじゃないの」と話したこともありますが、「たくさんの応援に応えたいから」と。これも「みんなに応援されなくちゃだめなのよ」と言っていたお母さんの影響が強いのだと思います。

 過去は振り返らない人です。「こんなことも言っていたんですよ」と僕が説明すると「へぇ」となる。そんなことよりも次の試合をどうするか。そう考える人です。この考え方はお母さんも一緒でした。

<あんな選手はこの先100年現れない>
鳥海貴樹 NHKアナウンサー

 ソチのフリーの実況中継をしました。トリプルアクセルを含め6種類の3回転ジャンプ八つに挑戦したのです。

「すべてをやりきったと言ってほしい4分間」、演技前にそう実況しました。最後のジャンプで「すべて跳んだ」と実況した後は胸にこみ上げるものがあり、コメントができなくなりました。少しの間の後、「これが浅田……真央です」。自分で声が震えているのがわかりました。隣にいた八木沼純子さんの目が赤かったのも覚えています。スポーツ実況中に涙が出たのは初めてでした。

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