綱川社長
綱川社長

 大手電機メーカー東芝が原子力発電事業の失敗で揺らいでいる。損失額は7千億円前後とみられ、隠れていたリスクが一気に表面化した。実は、東芝が抱える“爆弾”は原発だけではない。液化天然ガス(LNG)事業を巡り、最大約1兆円もの損失リスクがあるのだ。もし第2の爆弾が破裂すれば、その衝撃は計り知れない。

 原因は日本から遠く離れた米テキサス州の都市フリーポートにある。米国内からパイプラインで集めた天然ガスを冷やして液体にする施設だ。液化されたガスは日本など各国に運ばれ、火力発電所の燃料などとして使われる。

 東芝は2013年に、年間220万トンを19年から20年間にわたって引き受ける契約を現地の企業と結んだ。ここに大きなリスクが隠れていた。

 LNGの買い手が決まらずに引き取れなかったとしても、現地企業に毎年400億円超を払い続けないといけないのだ。現地企業が担うのは天然ガスを液化する業務だけで、ガスの調達や買い手探しは東芝の責任だ。安い値段を提示すれば買い手は見つかるが、調達価格を下回れば、売れば売るほど赤字になってしまう。

 不平等な契約のように思えるが、巨額の費用をかけて施設をつくる現地企業側からすると、長期の支払い義務を前提にしないと事業が進められない。こうした契約は資源分野では一般的で、東芝だけが不利な条件というわけではない。

 東芝は16年3月期の有価証券報告書で「電力・社会インフラ部門」の想定最大損失額を9713億円とした。15年3月期は13億円しかない。内訳などは非公表だが、大部分はフリーポートのLNG事業に関わるものとみられる。

 東芝は「LNGを一切引き受けられない可能性は低い。年間220万トンの半分程度の買い手は見つかっている」(広報・IR部)と主張している。約1兆円はあくまで「最大想定」として不安を打ち消そうとしているが、現実は厳しい。

 資源分野は「ハイリスク・ハイリターン」で、専門家集団の大手商社でさえ米国のLNG事業では大きな損失を出している。業界関係者は「LNGの市況は低迷しており、販売先を見つけるのは難しい。市況は将来回復するかもしれないが、当面はある程度の損失は避けられないはずだ」と指摘する。

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