『地方銀行消滅』(朝日新書)の著者、津田倫男氏によると、目立つのは東北。東日本大震災で被災し、建て替えなどの復興が進む仙台などだ。東北にわく資金需要に直接的、間接的に巨人が食いつき、地元の地銀は気が気でない状況だ。

 さらに別の大きな影も迫る。金融業界のガリバーと呼ばれる野村証券、さらには政府系金融機関も現れた。ある業界通は言う。

「めぶきFGの筆頭株主は野村。野村はきっと次の一手を仕掛けてくる。足利を使ってどうするかだ」

 野村は2006年に銀行業へ本格進出。経営破綻して一時国有化された足利銀にも出資している。“銀行の巨人”にでもなるのか。吉澤氏はこう読む。

「足利に出資したとはいえ、銀行業自体に興味はないと思う。安く買い、付加価値を高めて高く売るという戦略ではないか。合理化を進めるか、規模を拡大させるか……今後、他の地銀にも手を広げるなら『規模の経済』で価値を高めようという狙いでしょう」

 政府系金融機関が繰り出す低金利の貸し出しも脅威だ。各地に店舗があるゆうちょ銀行も預金で競合。民業圧迫さながらだ。また、名古屋や東京では力のある信用金庫が台頭。とりわけ低い「名古屋金利」などを武器に、下から地銀を突き上げている。

 金融庁は9月、地銀の25年3月期の経営状況などの見通しを公表。貸し出しや投信販売などの本業で地銀全体のおよそ6割が「赤字転落」という衝撃的な試算を明らかにした。

 わずかに残る“水場”を求めてさまよう地銀は、背に腹は代えられず、自ら壁を乗り越えて大都市圏にも進出。企業への貸し出しなども狙っている。「今や融資残高が地元の地方より都市部のほうが高い地銀も多い。もはや『名ばかり地銀』の状況」(吉澤氏)だ。例えば、京都市を拠点とする京都銀行でさえ、昨年末に東京の支店を営業部に格上げした。大阪や名古屋の支店も強化しているような状況だ。

 マネックス証券の大槻奈那チーフ・アナリストが指摘するように、窮地を脱するための再編にしても、メリットは極薄だ。例えば、「九州フィナンシャルグループ(FG)」が算出した今後3年の統合シナジー(金額)は貸出残高の約0.1%に過ぎない。これでは貸し出しで得られる利ザヤが少し減るだけで吹き飛んでしまう。統合の規模が大きくないと、マイナス金利の損失1年分をカバーする程度の効果しか期待できない。

 再編後も「領地」の外側でライバルと競うことになるため、既存店舗などのコスト構造を軽くする必要に迫られる。

週刊朝日  2016年10月28日号より抜粋