神崎さんはすぐに入院となり、安倍医師は膀胱瘤と直腸脱を腹腔鏡下で同時に治療する手術(LSCと直腸固定術)を実施した。

 LSCは、腹部4カ所に小さな孔を開け、そこから内視鏡(カメラ)や鉗子などの器具を挿入して手術する方法だ。ポリプロピレン製のメッシュ(網)を腟の前と後ろに縫合し、メッシュの端を尻の骨の上部(仙骨岬角[こうかく])に固定、子宮頸部や腟の尖部を持ち上げる。直腸固定術は、直腸を引っ張り上げてメッシュを使い仙骨に固定する。

 神崎さんの手術は4時間強で、1週間で退院した。尿もれが少々残ったが、手術前より水腎症も改善、排便障害もなくなった。

 LSCは現在、欧米で最も多く実施されている手術で、再発率や合併症率の低さなどがメリットだという。安倍医師はこう説明する。

「神崎さんのように、膀胱瘤と直腸脱や鼠径ヘルニアなどを合併している患者さんは意外に多い。LSCは一度の手術で治療でき、しかも約1週間で元の生活に戻れます。性生活を大切にしている人、排尿障害がある人、再発による再手術の人などには、年齢に関係なくおすすめできます」

 一方、TVM(経腟メッシュ手術)は、股間から前腟壁と膀胱の間や後腟壁と直腸の間を切開し、メッシュを挿入。専用の針を皮膚から刺して、メッシュの一部を骨盤内の靭帯や筋膜などの硬い部分に通し、その端を股部や臀部で留める。

 TVMはメッシュが最小限になるように、また股部や臀部の切開創もできる限り小さく、少なくする方向に進化している。その理由の一つが、FDA(米食品医薬品局)からTVMに対しての注意喚起が2度もなされたことだ。

 米国ではメッシュの露出や感染、周囲臓器の損傷といった重篤な合併症が多く発生したため、TVMが減少し、LSCが増えた。しかし日本では、TVMを実施する医師の技術力が高く、合併症率は低いという。

「TVMは現在、日本で最も一般的な骨盤臓器脱の手術法で、欧米より再発率もずっと低い。熟練した医師の執刀で、その医師の得意とする手術法が患者さんの希望、たとえば子宮を温存したい、手術時間を短く、などと合うものであれば、満足のいく結果が得られると思います」(安倍医師)

週刊朝日 2016年10月21日号より抜粋